欠くべからざる者
     
     
 

中忍うみのイルカは木の葉の里にとってなくてはならない人材だと言われている。
だが、正直俺は彼のどこが上層部をしてそこまで言わしめているのか今ひとつ理解できない。



たしかに、アカデミー教師として指導力はあるし、受付業務もソツなくこなして有能な人物だとは思う。思うが、欠くべからざる貴重な人材というのは大げさすぎないだろうか。

貴重というなら、そう、たとえばはたけカカシ上忍とか猿飛アスマ上忍とかマイト・ガイ上忍みたいな、里のトップクラスの上忍達を指していうものだ。特に写輪眼のカカシ、コピー忍者の異名をとるはたけカカシ上忍は、実力だけでなく存在に華がある。彼こそが木の葉の顔、里の看板だ。

木の葉崩しで里が壊滅的な打撃を受けたとき、彼の存在が里人全てを支えたといっても過言ではない。
三代目火影様をはじめ多くの忍や里人が亡くなり、家屋も倒壊して途方に暮れていた木の葉を導いたのは相談役でも里の重鎮達でもなく、はたけカカシ上忍だった。自ら任務をこなしながら頻繁に里人へ声をかけ、手のあいた上忍や中忍達を連れては困っている人々の手助けをなさっていた。受付所や待機所では皆を和ませるように会話の輪をひろげ、俺達下位の忍にも気さくに声をかけてくださった。緊張をほぐそうとの心遣いから、マイト・ガイ上忍や猿飛アスマ上忍達とじゃれあって笑いを誘っていたのも、人物の器の大きさを感じさせる。

皆の心がはたけ上忍を中心としてまとまったのも当然のことだった。
俺達、いや、里人全員が思った。この人がいるから大丈夫、どんな時でもこの人が笑っているかぎりなんとかなる、だから自分達もがんばろう、自分達に出来る事をやっていこう、そう思えたからこそ、木の葉の里は復興できたのだ。今、五代目火影様がたたれて里も安定したが、皆の心の底にはやはりはたけ上忍の存在がある。はたけ上忍さえ健在ならば、この先何が起こってもまた自分達は立ち上がることができるのだ。


この時から、はたけ上忍の指揮下で任務をこなせる忍になることが俺の目標となった。俺はがんばった。鍛錬を怠らず精進し、それなりに実績を積んだ俺は、ついに受付配属を言い渡さるまでになった。

受付と言えば里の中枢、火影様の直属部署だ。上忍や特別上忍になるごく一部の忍を除いて、中忍にとっては夢の職場、それが受付なのだ。なにせ里の機密を預かる部署、忍としての実力だけでなく、人間性も重くみられる。何より、機密任務のサポートには受付職員が赴く事が多い。ということは、はたけ上忍のサポートにつく機会が出来るということだ。そして俺は先輩達について様々な業務の研修を受けている最中だ。



今日は、件の中忍、うみのイルカについて接待業務の助手を務めている。
今回の相手は外国の特使で、忍の里を持たないその国は専属で契約する里をきめるために視察団を組んで回っているのだそうだ。そんな重要な接待をうみのイルカ一人が請け負っている。いくら有能な人物でも、一介の中忍に任せきりでいいのだろうか。まぁ、上層部が決めた事だから下っ端の俺が口をはさむ筋合いではないが。


一緒に仕事をしてみると、たしかにうみのイルカは有能な男だった。人当たりがよく視察団の接待も気が利いていてそつがない。あらゆるデータをわかりやすく提示して木の葉の優秀さを説いたり、教育機関の充実ぶりから将来性を示したり、だがそれだけではだめだ。俺は内心、不安がつのった。どの里も専属契約が欲しくて様々な形で己の里の有能さをアピールしただろう。だから、もっとインパクトのある何かをやらないと、きっと専属契約に持ち込むのは難しい。じゃあどうすればいいかと尋ねられたら俺などではさっぱろわからないのだが、それでもこのままでは契約は取れない、そう俺は確信していた。

そんなとき、視察団から実際に上忍と会いたいとの打診がきた。そうだ、これだ。俺はグッと拳を握った。確か今日ははたけ上忍をはじめ、猿飛上忍、ガイ上忍も里におられるはずだ。彼らと会えば、きっと視察団も納得する。というか、はたけ上忍がなんとかしてくださるはずだ。

「よかったですね、うみの中忍。はたけ上忍達にお会いになれば、特使も納得してくださいますよ。」

だが、うみの中忍はどことなく渋い顔になった。

「うみの中忍?」
「……あぁ、まぁ…なんとかなるだろ。」

っつーか、なんとかせにゃなぁ、とうみの中忍はブツブツ呟いている。なんとかしてくださるのははたけ上忍達だろうに、いったい何が不満だというのだろうか。というか、こういう態度は里の誉れたるはたけ上忍達に対して失礼なのではないだろうか。釈然としないまま、俺はうみの中忍が視察団を待機所へ案内するのについていった。
にこやかに上忍達の説明をしながら、うみの中忍はなかなか待機所へ近寄ろうとしない。

「うみの中忍。」

たまりかねて俺はそっと耳打ちした。

「……あぁ、わかっている。」

渋々、本当に渋々、といった感じでうみの中忍は頷いた。そして、怪訝な顔をする視察団ににっこりと笑う。

「いや、同じ里の忍同士といっても、流石に上忍ともなると格が違いますからね。我々も待機所へ向かうとなると緊張するんですよ。」

そうだったんだー。そうだよな、いくらベテランとは言ってもうみの中忍だって緊張するよな、なにせ今から里のトップ3に会いにいくわけだから。なんとなく俺まで緊張してきた。どきどきしながら上忍待機所ドアの前に立つ。うみの中忍は大きく一呼吸すると、意を決したようにドアノブに手をかけた。がんばれ、うみの中忍、お役には立てないけど俺、応援してます。

「失礼します。」

ガチャリ、とうみの中忍がドアをあける。その途端、パンパーン、と破裂音がした。なんだ、敵襲かっ。

「イッルカせんせーっ。」
「おぅ、イルカーっ。」
「イルカよーーっ。」

なっなんだなんだなんだっ。


「「「おたんじょーび、おっめでとーーーっ。」」」


なんなんだーーっ、目の前にいるのはたしかに里の誉れと言われるはたけ上忍だよな、その両脇固めてんのは猿飛上忍とガイ上忍だよな。何が起こってるんだーーーっ。唖然とする俺達の前で、里の誉れ達は揃って忍服を脱ぎだした。ってオイーーー、その赤いブラウスと黒いスパッツはいったい何事ーーーっ。


ズッチャカズッチャカ


音楽がなりだした。一昔前に大ヒットした一発屋ロックの名曲だ、うわ、音、むちゃくちゃよくね?うわーー、スピーカー、ボーズ?

「ハ〜イ、調子はどう?今日はぐーぐーダンスの総仕上げ、復習はしてきた?」

えええーーっ、踊りだしたよ上忍ズ、

「あレッツらゴー」

っつかこれってお笑いのあのエドは◯み…

「揺れる黒髪チャーミンぐー、カカシの心はウォーミンぐ〜、今夜はあなたとドッキンぐ〜、ぐーぐぐーぐぐーぐぐー…」


ガン、ゴン、バキッ、ガラッ、ポイピシャンッ。


「大変失礼いたしました。まったく困ったものです、あの忍獣どもときたら、後でよくよく仕置きしておきますので。」

時間にして0・3秒、目にも留まらぬ早さで上忍ズに拳骨をくらわせたうみの中忍は窓から三人を放り出すとピシャリと閉めてにっこりと笑った。

「……にっ忍獣?」

当惑する視察団にうみの中忍は至極真面目な表情で向き直る。

「ここだけの話、写輪眼のカカシを筆頭にビンゴブックに名を連ねる方々ばかりですから、存在自体が機密です。それで影武者を置いているのですが、アレらは訓練中の忍獣でして、まったく、変化も何もあったものではありません。御見苦しい様を、まことに申し訳ありませんでした。あぁ、トップ3の上忍達には国主からの緊急任務が入ったそうで、本来ならば極秘事項ながら特使の皆様に是非お会いしたいと本人達も希望しておったのですが、心よりのお詫びを申し上げてほしいとのことです。あ、この連絡がいつ参ったかと申しますと、わたくしがドアノブに手をかけたときに写輪眼のカカシの式が参りまして、いやはや、同じ里の者として自画自賛になるのを承知で申しますが、流石は写輪眼のカカシ、術の気配も何もわからぬうちにメッセージがわたくしの中に。まことに里のトップだけあって中忍ごときには計り知れない御方であります。」

なんつーか、立て板に水?視察団はすっかり感心してしまっている。っつか、ホントなのかその話、影武者なんて聞いた事ないけど…俺がぽかんとしている間に、うみの中忍は視察団を部屋の奥に案内する。

「あぁ、これはこれは、ヤマノ上忍にナガレ上忍ではありませんか。特使の皆様、お喜びください。木の葉の上忍はたとえビンゴブックにのっていなくても機密の多い極秘の存在、そんな方がお二人もこの場に居合わせてくださったとはなんたる重畳。ささ、どうぞこちらへ。ヤマノ上忍、ナガレ上忍、お忙しいところまことに恐縮ですが、少しお話を伺ってもよろしいでしょうか。」

え、木の葉の上忍ってそんな極秘の存在だったか?だってフツーに居酒屋で騒いでるじゃん。当のヤマノ上忍とナガレ上忍もソファの上で固まっている。うみの中忍の言葉にほうほうと相づちを打ちながら視察団は二人の前へ陣取った。と、特使のポケットから葉巻が飛び出しその手におさまる。そして先端にポッと火がついた。

「はっはっは、また御戯れを、ヤマノ上忍。いや、しかし恐れ入りました。印を切ったなどと全くわかりませんでしたよ。特使の皆様方、ヤマノ上忍ときたら、僅かも手を動かした様子などおありではなかった、それで術を発動なさるのですから、わたくしのような中忍にはまったく神業としか思えませんよ。」

いや、いくら上忍だからって印も切らずに術は発動させられないって、っつかうみの中忍、ソレ、視察団の後ろでアンタが術発動させてたじゃないスか。しかし、視察団からはおぉ、と感嘆の声があがる。すると今度はふわ、と風がふいて花瓶の花の花びらを巻き上げ視察団の女性メンバーの周囲に舞い散った。

「おやおや、ナガレ上忍、相変わらずの伊達者ですねぇ、美しい女性に花を贈るにしても、こういうやり方ですか。まったく粋な事をなさる。印も組まずに今、どんな方法を使われたのでしょう。中忍風情にはとんと見当もつきません、いやぁ、参りますなぁ。これだから上忍の方々は油断ができない。ねぇ、ナガレ上忍。」
「おっ…おぅ。」

もごもごとナガレ上忍は口の中で答える。そりゃそーだ、今のだってうみの中忍が後ろで術を発動させたんだから。しかし視察団は全く気付かずひたすら感嘆の声をあげるばかりだ。するとうみの中忍は大仰に両手を胸に当て己も感動してみせた。

「特使の皆様方、本当に幸運であらせられました。上忍の方々の技など、同じ里に暮らしていても我々下位の者はまず目にすることなど出来ないのですよ。わたくしも初めての体験であります。あぁ、申し訳ありません、同じ里の者として特使の皆様を案内する立場にありながら、わたくし自身が感動しております。」

うみのイルカの派手なパフォーマンスに視察団はすっかりのまれて、うんうんと感嘆の声しかあげていない。

「ヤマノ上忍、ナガレ上忍、お心遣い、まことにありがとうございました。もっとお話しをうかがっても…おぉ、これはっ。」

さぁっと金色の光が二人を包む。もちろん、うみのイルカの仕業だ。そして俺はしっかり見た、うみのイルカが上忍二人の足を蹴っ飛ばしているのを。上忍達は大慌てで印を組むとかき消えた。光がおさまると当然だが上忍の姿はない。再びおぉ、と声があがった。うみのイルカが微笑んだ。

「特使の皆様、木の葉の上忍は常に激務をこなしております。わたくしが先に提示いたしました各ランクごとの任務達成率の高さがいかに意味を持っているかご理解いただけたのではないでしょうか。では皆様、拷問棟の方に拷問スペシャリストのイビキ特別上忍が控えております。どうぞこちらへ。」


………もしかしてうみのイルカという男、とてつもないハッタリ屋?


口々に賛辞を表す視察団に笑顔で相づちをうつうみのイルカの後ろを、俺は黙ってついて歩いた。





「ひどい、ひどいよイルカ先生、オレ達、センセの誕生日だからって一生懸命アトラクション考えたのに。」
「あ〜はいはい、悪かったです。ほら、泣かないでくださいよ。」

視察団が帰った直後の上忍待機所で、俺は資料を抱えたままうみの中忍を待っている。彼の野暮用、なるものが終わるまで。そして俺の目の前ではホントに、ホントに信じられない光景が繰り広げられていた。里の誉れ、写輪眼のカカシがうみの中忍の膝に顔を押し付け泣き崩れている。その脇では猿飛上忍が口を尖らせ、ガイ上忍が貰い泣きだ。

「そうだぞイルカ、我がライヴァルのために我々も日々練習を積んだのだ。」
「オレとしてはいい出来だったと思うんだが、おめぇ、気に入らなかったのか。」
「いえ、皆さんのお心遣いは心底嬉しかったですよ。しかし、私にも立場がありますから、どうしてもあそこの専属契約、取りたかったですし。」

それからうみのイルカは銀髪の上忍の髪を優しく撫でた。

「ねぇ、カカシさん、これから誕生日、やってくれるんでしょう?オレ、火影様への報告終わらせてきますから、一緒に帰りましょうよ。オレの好きなもの、買ってくれるんですよね。今夜はいい酒が飲みたいなぁ、明日は休み貰ってあるし、カカシさん、選んでくれるでしょ、オレのために。」
「はっはいっ、もちろんですっ。」

がばり、と里の誉れは顔を上げた。

「オレ、ここで待ってますから。」

にっこりとうみの中忍が笑う。ガイ上忍と猿飛上忍が写輪眼のカカシの肩をがしり、と抱いた。

「よかったなぁ、カカシ、がんばったかいがあったじゃねぇか。」
「我がライヴァルよ、グッドラックだっ、青春してこいっ。」
「ありがと、ありがとね。」

友情を確かめ合う里のトップ3にうみの中忍はもう一度微笑みかけると、俺に目で合図をして火影様の執務室へ向かった。








「ご苦労だった、イルカ。それで首尾は。」
「まだわかりませんが、手応えはかなり。」
「で、あのバカどもは。」
「大丈夫です、ぬかりはありません。」
「拷問棟の方は。」
「はい、イビキ特別上忍は丁度レース編みの最中でしたが、そのあたりは上手く。」
「よし、問題ないな。」

執務室でそんな会話がかわされ、五代目様は満足げに頷いた。

「おい、そこの新人。」
「はっはいっ。」

突然呼びかけられて俺は硬直した。

「受付業務につくからには、お前も里の機密を保持する一員だ。イルカについて、受付魂、叩き込んでもらえ。」
「ははははいっ。」

わけがわからぬまま勢いよく返事をした俺に五代目様はもう一度頷くと、うみの中忍に向き直りしみじみとおっしゃった。

「本当にイルカ、お前がいないと木の葉の里は立ち行かないね。」
「過分な仰せ、身に余る光栄と存じます。」
「あのバカども、手がかかるだろうがこれからも頼んだよ。」
「御意。」

一礼するとうみの中忍は執務室を後にする。俺も頭をさげると急いでうみの中忍の後を追った。廊下に出てしばらく歩く。うみの中忍は人通りがないことを確認すると、くるりと俺に振り向いた。

「いいか、お前がさっき見たものは里の最高機密に属する。他言は無用、もし背く事あらば即座に処分されると心得ておけ。」

人好きのするいつものうみの中忍とは打って変わった厳しい表情だ。ごくり、と喉をならし、俺は頷いた。するとうみの中忍の表情がふとくだける。

「あのな、カカシさんやアスマさん、ガイ先生だけじゃなくてな、多かれ少なかれ上忍、特上連中ってのはあぁなんだよ。スペシャリストってぇのはどっかズレてやがる。手がかかるったらありゃしねぇ。」


えぇ?あ、うえぇ?


目を白黒させる俺にかまわず、うみの中忍はため息をついた。

「だがなぁ、上忍や特上ってのは稼ぎ頭だしな。トップ3にいたっちゃ里の顔だろ?」

びし、とうみの中忍は指を突き出す。

「いいか、オレ達受付職員の最大の任務ってぇのはな、あのとっぱずれた連中がヒーローだって里の内外に信じ込ませることだ。だからこそサポートもオレらがつく。まぁ、カカシさんはオレの男だし、ガイ先生はカカシさんの親友で、アスマさんはオレの幼なじみってんで、あの三人はオレが専属で面倒みてんだがな、他の連中も大変だぞ、特に紅先生やアンコさんは要注意人物だ。そろそろ業務にも慣れてきた頃だし、あとで他の職員からチェックリスト、受け取ってくれ。とにかく、多方面への気配りが要求される仕事だ。早く慣れてがんばってくれよ。」
「はっはいっ。」


頷くしかなかった。これ、これってある意味、里の影の部分ってやつ?


「じゃ、カカシさんが待ってっからオレ、先にあがるわ。今日は誕生日でさ、あの人、お祝いしたくて一生懸命なんだ。」

それからうみの中忍は少し照れたように笑った。

「優しい人だからさ、カカシさんは。」

窓から射し込む夕日のせいか、うみの中忍の顔が赤い。俺はうみの中忍の後ろ姿を見送って、それからチェックリストを受け取るために受付所へと足を向けた。



後日、うみの中忍の思惑どおり、視察団を寄越した国と木の葉の里は専属契約を結ぶはこびと相成った。
たしかに、うみのイルカという男は、木の葉にとって欠くべからざる人材だ。そして俺も、受付の職責を果たすべく、日々仕事に精勤している。少しでもうみの中忍の助けになれるよう、木の葉の里を発展させられるよう。未熟ながら俺も受付戦士の一人として、木の葉のために戦い抜くのだ。

 
     
     
 

イルカ先生!お誕生日おめでとう!


ってコレ……
ウチのイルカ先生は有能な教師であるまえに
稀代のサギ師なんではないかという気がしてきた。

そして木の葉の里の欠くべかざる者、うみのイルカの真実の姿は
すずーーーーっとスクロール

本体はスーパーで売ってます。
そのうちカカシもupします。


まあ、色々とあれですが、ほれ、誕生日ですから……
お笑いネタがわかる人も知らない人もご一緒に
あ、レッツらゴ〜