恋に落ちるきっかけなんて不意打ちみたいなもんで、なんで恋しちゃったのか、そんなの本人にだってわからない。理由なんて些細なこと、それが恋ってもんでしょう?
「いい加減オレ一人にしてくださいよ」
「ん〜?」
「ねぇ、カカシさん」
心地よくまどろんでいたところを揺さぶられ、カカシは薄目を開けた。黒い瞳が自分を覗き込んでいる。
「なによ」
任務明け、疲れていたのに結構激しくこの男を抱いたから眠くてたまらない。カカシは身じろぎしてまた目を閉じる。
「ねぇ、カカシさんってば」
また揺さぶられた。目をつぶったままカカシは眉を寄せる。起きる気配のないカカシに焦れたのか、今度は体をピタ、と密着させてきた。
あ〜もう、足絡めんなって。アンタのすね毛、ゴワゴワなんだからさ。
カカシの機嫌は急降下だ。むぅ、と唸って寝返りを打とうとしたら、ぎゅむ、と鼻をつままれた。
「ぶわっ」
さすがに目を開ける。黒髪の情人がしてやったりという顔で笑った。
「やっと起きた」
「アンタねぇ」
鼻を押さえカカシはしぶしぶ頭を上げ、肘枕で黒髪の情人、うみのイルカへ向き直った。
「なんなの、いったい」
かなり不機嫌な空気を醸し出しているはずなのだが、目の前の男は別に気にもとめていない。にこにこと屈託のない顔でカカシを見つめてくる。
「だからね、カカシさん、恋人はオレ一人に絞って下さいって言ってるんです」
「またその話?」
うんざりとカカシは顔をしかめた。だがイルカは全く動じない。
「だってあなたが他の女の人のとこに行くのはイヤなんですもん」
「ですもんってアンタね…」
「オレは結構タフな男ですけど、やっぱり傷つくんですよ?」
ねぇ、ねぇ、と体を寄せてくる。カカシは片手でそれをいなした。
「何度も言うけどね、アンタにアレコレ指図されるいわれはない、っていうか、誰が恋人よ誰が」
「オレ」
「あのねぇ…」
カカシは眉をひそめる。
「アンタにしろ女達にしろただの情人でしょ?自分が恋人ってアンタさ、最近調子にのってない?」
言外にいつでもお前を捨てられるのだと匂わせる。だが言われた本人には全く動じる気配がない。
「だってあちこち渡り歩くのって案外体力いるんじゃないですか?そんな生活、カカシさんには向いてないと思うけどなぁ」
ムッとなった。確かに写輪眼を使うとチャクラ切れを起こしてしまうので体力がないと思われがちだが、実はカカシは相当にタフだ。並の上忍など足下にも及ばない。そのくらい体力がないと写輪眼を使いこなせないのだ。しかし、隣に寝転がっている中忍はそこまで思い至らないらしい。鈍いうえ無神経だ。
コイツ、本気で捨ててやろうか
ベッドを出ようと起き上がりかけたカカシの腕に、だが男はするりと腕をからめてきた。
「別に体力ないなんて言ってませんよ?忍びのアンタは凄いですし、夜だってね」
う、とカカシは身を固くした。ふふ、と笑う男の顔はひどく蠱惑的で、アカデミー教師である昼の顔からは想像もつかない。下半身に再び熱が集まりそうになって慌てて意識を他へ散らす。そんなカカシの心のうちを見透かしたように、黒髪の情人はぺたぺたと素肌に触れてきた。
「でもプライベートはアナタ、面倒くさがりじゃないですか」
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