銀色狂詩曲試し読み

 

 


えっと、こんにちは。かりがねコージです。上忍です。新米です。

んでもって9月も半ば、残暑厳しき折の夕刻、オレの目の前に里の誉れが立ってます。ここ、オレんちです。オレんちの自宅玄関前です。任務から帰ってきたら里の誉れとばったり行き会いました。

里の誉れってのははたけカカシ上忍のことです。他国にまで名をはせるメッチャ凄腕の上忍です。次期火影とも言われてます。凄腕でクールで表情が読めないって上忍待機所でも話しかけるのは猿飛上忍とかガイ上忍とかだけです。新米ってほどでもないけれど上忍歴のまだ浅い夕日上忍の場合は付き合いの年季も気合も違うっていうか、昔からの友達らしくて言いたい放題やってますけど、そんなことが出来るのはホントの昔馴染みの友達だけであとは話しかけるどころかはたけ上忍がいたら息を潜めてたりします。そんな凄腕でみんなから遠巻きにされてる里の誉れが目の前にいます。両手に酒の一升瓶四本抱えてます。

「や、コージ君」

里の誉れが片手を上げました。酒四本抱えているのにさすがです。

「任務帰り?偶然だぁね、オレもそうなのよ」

知ってます。だって今回の任務の指揮官は目の前にいらっしゃるはたけ上忍でしたから。大部隊での前線任務だったから下っ端上忍のオレも部隊員だったこと、ご存知なかったでしょうが。

「じょーだんじょーだん、コージ君もおんなじ任務だったもんね。お疲れさん」

冗談って、わかりにくっ

「ただいまー。パッパー」

里の誉れはただいまと言ってオレんちの玄関開けました。ホント、ナチュラルにただいまとオレんちの玄関を…

って、写輪眼のカカシがオレんちの玄関開けてただいまって、いやもう、オレ、どうすりゃいいんでしょうかっ。

かりがねコージ二十二歳、上忍になって約一年、この状況にぜんっぜんついていけてませんっ。





はじめてはたけカカシ上忍に挨拶した日のことはかりがねコージにとって鮮烈な記憶だ。

それはコージが立花指導上忍に連れられ初めて上忍待機所へ行った日のことだった。夏真っ盛りの昼下がり、アブラゼミがジージー鳴く中庭を抜け二人は本部棟へと入った。先輩達にちゃんと挨拶するんだぞ、と立花に念を押され随分と緊張したのを覚えている。本部棟入り口の花壇に向日葵が咲いていて、その真っ黄色の花を眺めながら今日は特別な日になるんだと、そんな感慨を持った。

立花指導上忍は生真面目すぎるきらいはあるが面倒見のいい親切な人だった。多くの新米や上忍候補者を任されてきたのは、上忍としての実力もさることながら後進を育てる能力を三代目が見抜いたからだと言われている。実際、指導上忍が立花だと聞くと、他の上忍候補者達から羨ましがられた。立花の指導を受けてコージはしみじみ、その言葉の意味を噛み締めたものだ。

上忍待機所の前まで来ると、カチコチに緊張しているコージをチラリと見た立花が肩をたたいた。

誰も取って食いやしないぞ?

そう言って笑った立花は景気良く待機所のドアを開けた。

「皆、聞いてくれ」

痩せぎすな立花がガタイのいいコージを引っ張り入れる。

「今日から新しく上忍になったかりがねコージだ。これからよろしく頼む」

立花の声に中にいた上忍達の視線が一斉に集まった。今まで雲の上だと思っていた上官達だ。コージはがば、と頭を下げた。

「かりがねコージですっ。よろしくお願いしますっ」
「あぁ、アンタが立花さんの秘蔵っ子か」
「デカイなぁ、身長、いくつあるんだ?」
「立花さんが針金に見えるわ」

にこやかな声に思わず頭をあげると、先輩上忍達が目の前に移動してきていた。いつの間に、とコージは舌を巻く。

「アンタが候補生の時、そりゃもう立花さんがうるさくてな」
「久々に見どころがあるってベタ褒めでよ」
「期待の新人、がんばらないとなー」
「にしてもガタイ、いいなアンタ」

バシバシと皆からあちこち叩かれた。かりがねコージは上背があるうえがっちりと岩のような体をしている。叩きがいがあるのかもしれない。
それにしても皆、楽しげで明るい。一度、お使い任務で霧の上忍達が待機している部屋に通されたことがあるが、そこの冷え冷えとした空気に比べると段違いだ。木の葉が自由で仲間思いの里だといわれる理由がよくわかる。あんな恐ろしげな雰囲気でなくてよかったと胸をなでおろした。
ただ、上忍待機所にいる上忍達に質の悪い輩はいないのだと予め立花から聞かされている。里の皆は家族だというのはたてまえで、どんな階級だろうと質の悪い者はいる。もともと、待機とは連絡さえつけばいいわけであり、待機所にいる義務はない。ただ、上忍待機所は設備が整っていて居心地がいいので皆が集まるだけだ。そしてトップ上忍と呼ばれている者達も当然だが待機所でくつろいでいる。なので性根の暗い者や下っ端に威張り散らすタイプの上忍は似たような者達とつるんで他にたまり場を作っているのだそうだ。その意味が今、なんとなく実感できた。こんな親しみあふれた雰囲気にはそりゃあ馴染めないだろう。

「きゃ、新人さん」
「ゴツイけど可愛い顔してるわね。坊や、いくつ?」

くノ一のお姉様方まで寄ってきた。上忍のお姉様方はさすがというか、一人一人己の魅力を最大限に引き出す格好をしている。

「えっと、二十一です」
「茶髪ふわふわ〜」
「あの、顔と髪は母似だとよく言われます」
「あ〜、お母さん、目がおっきいんだー」

くノ一のお姉様方にいじられていたら、立花上忍が脇をつついてきた。

「はたけ上忍がいらっしゃるぞ」

ハッとコージは立花の目線の先を見た。

窓際のソファにその人はいた。
これまで遠目でしか見たことのなかった写輪眼のカカシがそこにいる。噂どおり、黒い口布で顔の下半分を覆い額当てを斜めにかけた木の葉のブランド忍びはスラリとしていて想像よりもずっと若かった。そういえば戦場に出たのが早かったのでまだ二十代半ばなのだと聞いたことがある。窓越しの真夏の強い陽光に逆立つ銀髪が煌めいていた。忍びでありながら華のある人だ。なのに全く気が付かなかった。気配がないのだ。ゆったりソファで寛いで本を読んでいるのに気配がない。

レベルが違う…

ごくりと喉が鳴った。

あれが写輪眼のカカシ…

知らず背中に汗をかいていた。ひと目で忍びとしてのレベルが違いすぎるのだとわかる。

「ほれ、はたけ上忍に挨拶してこい」

立花にもう一度小脇を突かれた。だが足が出ない。はたけ上忍は威圧しているわけでもなくただ本を読んでいるだけだ。なのに全身が竦む。ふと、こっちの気配を察したのかはたけ上忍が顔をあげた。それはそうだろう。己でも情けないとは思うが混乱と恐怖の入り混じった感情が駄々漏れだ。そんな未熟な新米に、だがはたけ上忍はニコリと目を細めた。

「立花さん、その子が指導してたっていう新人さん?」
「あ、はっはい。そうです」

立花が緊張した面持ちでこたえた。立花とてベテラン上忍、年も四十過ぎ、だが立花よりはるかに若いはたけカカシに敬語でこたえる。無理もない。忍びとしての経歴だけでなく戦場にたった年数も年若いはたけカカシの方が上なのだ。
その写輪眼のカカシが立ち上がった。コージと立花の方へ歩み寄ってくる。コージは思わず後ずさった。そんなコージに写輪眼のカカシは柔らかく言った。

「はじめまして。はたけカカシです」

コージの方へ手を差し出しぎゅっと握った。

「よろしくね。わからないことがあったら何でも聞いて?」

ニコ、とまた目を細める。ふわりと周囲の空気が華やいだ。歴戦の上忍でありながら刺々しいところは全くない。

「あっあのっ、ありがとうございますっ」

そう応えたあとのことはさっぱり覚えていない。あわあわとただテンパっていたと思う。そのすぐ後、三代目からの呼び出しがかかり写輪眼のカカシは待機所を出て行った。

「よかったなぁ。はたけ上忍にご挨拶出来て」

立花がホッと力を抜いた。

「はっはい、光栄ですっ」

拳を握ったコージに立花が吹き出した。

「だよなぁ。オレ達だってカカシさんに直接会ったの、去年だしな」
「そうなんですか?」
「そうだぞ。それまであの人、里に帰ってなかったから」
「上忍師になるってんで帰ってきたんだよ」

他の上忍達もわらわらと集まってきた。

「はたけ上忍、上忍師なさってるんですか?」
「おうよ。ガキどもははたけ上忍がどれだけ凄いかわかってねぇから言いたい放題やってるみたいだな」
「だけど面倒、よく見てるわよ」
「案外、子供好きだったのね、写輪眼のカカシって」
「まぁ、子供達以外は相変わらず遠巻きにしてるけどな」

ひとしきり写輪眼のカカシ談義がはじまる。

「かりがね、お前、カカシさんに好感もたれたんじゃないか?」
「へ?」

先輩上忍の言葉にコージは面食らった。

「なっなんでですか?」
「だったお前、握手して下さったじゃないか」
「そうだぞ、新入り」

他の上忍達も感心したように言う。

「カカシさんがあんな風に親しく声かけてくるってそうそうないぞ」
「アスマさんとかガイさんとか紅さんくらいだって。親しくしゃべってんの」
「っつかな、同期の連中以外で口きける奴ら、いない感じなんだよな」
「コージ君、童顔だから子供達と同じカテゴリに入っちゃってたりして」

つんつん、と色っぽいくノ一のお姉さんに髪を引っ張られた。立花が眉間に皺を寄せる。

「ソコ、どさくさに紛れて新米を誘惑しないように」
「やぁだ、立花さんってホント、教師だわよねー」
「あっあのっ」
「コージ君、かぁわい〜」

上忍に昇格出来る忍びは少ない。新人は格好の的らしく、その後は先輩たちから弄り倒された。かりがねコージの待機所洗礼はこうして終わった。


それから新米上忍としてかりがねコージは任務三昧の日々を送った。まだ指導上忍についての研修任務ばかりだが、早く一人前になれるようにとコージは必死だった。たまに、今の新人は甘やかされている、自分達の時代はすぐに前線に送られていたと絡まれることもあるが、それは待機所にいない、いわゆる『質の悪い』上忍達で、九尾の災厄のどさくさで昇格した連中が多いとの話だ。もともと肝の座った性格でもありコージは動じることはなかった。

そんなある日、立花監督の元、初の隊長任務の帰りにはたけ上忍が合流してきた。待機所で見かけても話しかけるなどもってのほかと思っていたコージは舞い上がった。近寄りがたいと思っていた里の誉れは案外気さくにお喋りする人で、家に帰って家族にその話をすると父は泣くほど感動してくれた。下忍である自分の息子が上忍になり、里の誉れに親しく声をかけてもらえるなんて感無量だと父は感涙にむせんだ。

そう、その時は感動の涙だと思ったのだ。
まさか、下忍だと思っていた父が伝説の暗部、チームマッスルの玄武だったとは、しかもあの写輪眼のカカシが『パッパ』と慕う育ての親の一人だったなど、どうして想像できよう。あの涙は里の誉れに声をかけてもらった息子を誇らしく思ったわけでもなんでもなく、思い出を大事にしていてくれた『カカシ』への涙だった。

 
ってことで「銀色きらきら」の続編です。銀色きらきらで主役はっていた玄武さんの息子、コージ君視点でのお話…っつか、カカイルはどこいったカカイルは!憧れの人のカカシさんなので「写輪眼ブランド」ひっさげて穏やかです。