銀色きらきら試し読み
     
     
 






梅の咲く季節にソイツは来た、十歳くらいの、藍色の瞳に銀髪のひょろっとしたガキ。

口布なんぞで顔を隠していっぱしの忍び気取りかって感じだが、女の子って言われても通るくらい綺麗な顔立ちしている。
連れてきたのは波風ミナト上忍だ。うん、口布はきっと波風ミナトがさせたんだな。そりゃ隠させたくもなるだろ。人目引くからなぁ、こんだけの美少年ぶりじゃ。

しかしまぁ、よりによって何故この大隊に。

オレはいささか呆れて波風ミナトを眺めた。
確かに今は忍界大戦の真っただ中、才能のある奴はガキでも戦場に投入されるご時世だ。
にしたってオレ達の暗部大隊が今から向う戦場は並じゃねぇ。泥沼の消耗戦になっちまって、中忍や並の上忍レベルじゃどうしようもなくなったからオレらが召集された。暗部の中でも精鋭揃いなオレ達だって生きて帰れる保証はねぇってのに、いくら優秀でもこんなガキなんざあっという間に死んじまうだろう。上はなに考えてんだか、正気の沙汰とは思えねぇ。実戦投入できるような優秀なガキはちゃんと育てた方が後々里に有益だろうによ。

波風ミナトは大隊長の前にソイツを連れていくと、くれぐれもよろしく頼むと頭を下げた。何度も何度も、繰り返し頭を下げる。
驚いた、波風ミナトといやぁ、黄色い閃光の異名をとるトップ上忍で、三忍の一人、自来也様の一番弟子にして次期火影と謳われる青年だ。そんな超、がつくエリート上忍がひたすら頭を下げている。大隊長も当惑気味だ。
挨拶を終えると波風ミナトは銀髪の子供の前に膝をついた。

「この任務は大変だけど無茶したらダメだよ?怪我したらすぐ手当して、ほら、特製のお薬あげたでしょ?」

居合わせた全員、呆気にとられて波風ミナトを凝視した。
怪我したら?お薬?子供とはいえ仮にも忍び、今更何を言ってるやら。
当の波風上忍は周囲の反応なんざ眼中にないようで、子供の銀髪をぐりぐり撫でている。

「ご飯ちゃんと食べてね。好き嫌いしたら大きくなれないんだから。お野菜も食べるんだよ」

おいおい、どこの親ばかだ。ここは暗部だぞ。

「お腹出して寝ちゃダメだよ?風邪ひかないようにね。風邪引いたら大変。何かあったらすぐに僕を呼ぶんだよ」

おいおいおい

周囲からひっそりとだが失笑が漏れる。銀髪のガキはその気配を感じたのか、頭を振って波風ミナトの手をはらった。

「大丈夫です。オレはもう子供じゃありません。忍びです」

おやおや、鼻っ柱の強い。まぁ、そのくらいなきゃ暗部でなんかやっていけねぇか。
だが、波風ミナトはくしゃ、と顔を歪め、いきなりソイツを抱きしめた。それこそぎゅうっと。

「バカだね、バカだねお前は」

ぎゅうぎゅう抱きしめる。子供はただ突っ立ったままだ。波風ミナトは絞り出すように言った。

「子供だよ、お前はまだ子供なんだよ」

カカシ

子供はそう名を呼ばれた。どこかで聞いた名だ。

カカシ

あぁ、あの白い牙、はたけサクモの一人息子だ。六歳で中忍になった天才少年、波風ミナトが溺愛しているってのでも有名なガキだ。親父が自殺したあと、波風ミナトが引き取ったと聞いていたが、それが何故こんな任務に放り込まれるんだ?

「チッ、見せしめかよ」

オレの隣で『白虎』が舌打ちした。暗部で長年、一緒にチームを組んでいる男だ。猛々しく長い白髪を振り乱して戦うのでそんな名がついた。

「見せしめ?」

首を傾げるオレに白虎はやれやれと首を振る。

「お前ぇは世事に疎すぎるんだよ、玄武」

『玄武』がオレの暗部内での名だ。髪も黒けりゃ肌も色黒で体が岩みてぇだからと白虎の奴がそう呼んだのがきっかけだ。

「白い牙の事件以来、三代目の勢力が弱まっただろ。そこついて武闘派の連中、白い牙の息子まで闇に葬ろうってぇ腹よ」
「なんで、まだガキじゃねぇか」
「まだ子供だからよ。今のうちに潰さなきゃ、成長しちゃったら厄介でしょ?」

後ろにもう一人のチームメイト、朱雀が立っていた。
コイツは別に赤い髪でも何でもねぇ、フツーの茶髪なんだが、白虎に玄武がいたら後は朱雀か青龍だろうし、赤が好きだから朱雀でいいわ、とえらく安直に名前を決めた奴だ。
コイツはチーム内で一番背が高いが、それはすらっとした感じじゃなく筋肉質でがっちりしている。ちなみにオカマだ。

「武闘派にとっちゃ波風ミナトは目の上のタンコブ、その懐刀になる子供なんてそりゃあ脅威だわよねぇ」

おねぇ言葉のまま朱雀は吐き捨てた。

そうだったのか。

苦い思いが沸き起こる。オレ達が命張って戦っているってぇ時に、里の上じゃ権力争いか。だいたい、白い牙なんて里の最大戦力を自死に追いやる時点で終わってると思ったが、ガキまで殺そうとするなんざ、どこまで上は腐ってるんだ。

「まぁ、忍びならどのみち、自分の力で生き残るしかねぇんだがな」

白虎が呟くように言う。その視線の先では波風ミナトがオレ達に頭を下げ下げ、召集場所から立ち去っていった。後には銀髪の子供が所在なげに突っ立っている。

「あ〜、はたけカカシ…君」

大隊長が困惑気味に声をかけた。
そりゃ困るだろう。ただでさせ困難な任務にガキまで押し付けられたら誰だって途方にくれる。しかもあの波風ミナトが頭を下げてきたのだ。
今、いくら武闘派が里を牛耳っているとはいえ、相手は三代目と四代目候補だ。いつまた形勢逆転なるかわからない。ないがしろにするわけにはいかず、かといって庇うわけにもいかない大隊長は板挟み状態で困り果てている。
心中非常にお察しするが、ま、下っ端のオレ達にゃ上の事情なんざ関係ねぇ。
ふっと子供が藍色の瞳でまっすぐ大隊長を見上げた。

「カカシでいいです」

きっぱりとした態度だ。へぇ、案外肝が座ってんのか?

「あ?あぁ、じゃあカカシ、所属チームは追々言い渡すとして、取りあえず移動についてこられるか?」
「足手まといになるつもりはありません。遅れた時には切り捨てて下さい」

おやおや、突っ張っちゃって。
あちこちから含み笑いが漏れている。まぁ、お手並み拝見といきますか。遅れたら助けてやるくらいの情は持ち合わせている。

「隊長、アタシ達のチーム、殿でいいわよ」

朱雀がはいはい、と手をあげた。隣で白虎がニヤリと笑う。どうやら同じ気分だったらしい。
大隊長が頷き、短く到達ポイントを告げてかき消えた。周囲の連中も次々と跳躍する。
オレ達チームも頭の横に跳ね上げた面をかぶり直す。オレは狗、朱雀は鳥、白虎は猫面だ。あだ名を思うとちょっと笑える。銀髪のガキは狐面をかぶり跳躍した。オレ達は最後に跳ぶ。
前を走る銀髪のガキの背中はひどく小さかった。





この世の中にゃ天才ってぇのが確かに存在する。

正直、オレは舌を巻いていた。オレだけじゃねぇ、おそらく隊の連中全員がだ。

足手まといになるつもりはない、あの言葉は突っ張ったわけでも何でもねぇ、事実だったってのをオレ達はまざまざと見せつけられている。

銀髪のガキは遅れるどころか、暗部精鋭のトップスピードに平気な顔でついてきた。それどころか、移動途中の作戦行動にしろ不意の交戦にしろ、そりゃあ見事な働きを見せて大隊長を唸らせた。
なんつーかカエルの子はカエル、いや、カエルっつったら白い牙に失礼だな、とにかく、波風ミナトは溺愛しつつきちんと力はつけさせていたってことか。それくらい白い牙の息子は凄かった。
ガキを助けてやるどころか、ガキに助けられる暗部仲間続出で、ちょいとオレ達、先輩としての立場がない。
そうしてオレ達暗部大隊は、目的地で野営しつつ作戦行動を行っている。

しっかし、人間の業っていうか何と言うか、出る杭を打とうとする連中ってのが必ずいるんだな。それは暗部でもかわりはなく、大隊ともなるとそれなりに色んな連中が集まっているからしょうがないっちゃしょうがないんだが。

「おい小僧、先輩差し置いて飯食う気か?礼儀がなってねぇな」
「後ろにまわれ後ろに。お前は最後だ」

戦地での野営はある意味忍ぶ必要がない。だから暗部大隊も火を使って温かいものを食う。長期戦になりゃいくら暗部だって毎食兵糧丸ってわけにはいかねぇ。きちんと食ってこそ戦えるってもんだ。だが、飯を貰おうとした銀髪のガキにインネンつけてるコイツらは何だ?みっともねぇったらありゃしねぇ。っつーか飯がまずくなる。

「何だか、ずっと嫌がらせされるらしいわよ」
隣に座って汁を啜っていた朱雀がこそっと囁いてきた。

「あの子、アイツらと同じチームに配属されたそうだけど、いっつもあの調子でろくに食べてないらしいわ。兵糧丸かじってるって」
「なんだそりゃ」

オレは目を剥いた。

「他の連中は何も言わねぇのか」
「関わりたくねぇんだろ」

白虎が唸る。

「アイツらはよ、武闘派の子飼いでな、三代目寄りの連中のチェックしてるってもっぱらの噂だ」
「おい、暗部は火影直属の部下じゃねぇのかよ」
「バカね。ダンゾウ直属の『根』だっているじゃない。上が揉めてる今、暗部だって一枚岩じゃないのよ」
「戦争中だってのに何やってんだ、上は」

沸々と怒りがわいてくる。
嫌がらせされた子供は黙って列を離れようとするが、連中は終わらせるつもりはないようだ。

「おい待てよ、挨拶もしねぇでどこ行く気だ」
「すみませんの一言くらい言えないのかなぁ、カカシ君は」

何だあの低レベルな嫌味は。オレは遠慮なく連中をじろじろ見た。
ん?あの男…子供に率先して嫌がらせしている男、ありゃ確かはたけサクモが自死するきっかけになった任務に同行してた奴じゃなかったか?横目で朱雀と白虎に確かめると苦々しげに頷いた。

「自分、サクモさんに助けてもらったくせ、武闘派についちゃってさ、サクモさん批判するだけじゃあきたらないのかしらね。息子まで苛めて、みっともないったら」
「なのにこないだの戦闘じゃ、カカシに助けられたそうだぞ」
「あら、恩知らず」

朱雀が吐き捨てた。
ったく、同感だ。
見ると連中の嫌がらせはまだ続いている。なんてしつこい奴らだ。銀髪のガキは黙って立っている。
おいおい、少しくらい反論したっていいんだぞ。暗部じゃ己の身は己で守るしかねぇんだから。
嫌味を言う連中もあまりにカカシの反応が薄いので苛ついてきたらしい。

「木偶の坊みてぇに突っ立ってんじゃねぇよ」
「それとも何か?まさかオレを助けて得意になってんじゃねぇだろうな」

サクモさんに助けられた男が子供の肩を小突いた。

「お前の親父といい、余計なことすんじゃねぇ。こっちはエラい迷惑したんだ。はたけサクモのせいでオレまで責められて、たまったもんじゃねぇよ」

さぁ、と子供の顔から血の気が引いた。大きく目を見開いて男を見つめる。真っ青な唇が震えた。子供の反応に男は調子づいた。

「なんだ、少しは悪いって思ったのか?」

くい、と子供の顎を持ち上げた。その目に嫌な光が浮かぶ。する、と子供の口布を押し下げた。周囲の連中がひゅう、と口笛を吹く。カカシはそれほど綺麗な顔立ちをしていた。

「いや、オレもいつまでも言うつもりはねぇんだがな」

男は口の端を嫌らしくあげた。

「そろそろ仲直りしてもいいかもしれねぇな、なぁ、カカシ」

にやにやと男は銀髪のガキの肩に手をかけた。

「同じチームだしな。ほら、こっち来いよ」

野営地の奥の天幕に移動しようとする。嫌がらせしていた連中が子供を囲むように動いた。子供は黙って従っている。奴らの目的は明らかだ。女っ気のない戦場で、自分達に逆らわない綺麗なガキがいた、好都合だってことか。年端のいかない子供を、しかも命の恩人だってぇのに

「おい、楽しみたい奴いたら一緒に来いや」

周囲にいる連中にそんな声までかけやがる。オレの中でブチ、と何かが音をたてた。

「おい、待てや」

男達が振り向いた。立ち上がったオレを見て連中はニヤリとした。



 
     
     
 

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