(再録「二つしかない、大事にしよう」の次から書きおろし「バレンタイン激闘編」途中から。出だしは18禁なんで流石に試し読みはなぁ)
奴のせいで実に爛れた休日を過ごしてしまった。いや、オレだってな、まぁ、気持よかったっちゃ気持ちよかったしな。別にオレは動けないわけじゃなかったのに奴は細々世話やいてくれたし。
相変わらず口は悪いがな。アンタ体力ないんだから黙って横になってなさいよ、無理して動かれても迷惑、とかなんとか抜かしながら卵とじおじやとかプリン、あーんで食べさせるんだよな。
一人で食えるっつっても絶対譲らねぇ。歩けるっつってんのにお姫様抱っこで風呂まで連れて行きたがるし、風呂でオレを洗いたがるし、ここまで言ってることとやってることがかけ離れてる奴ってのも珍しいんじゃね?まぁ、ずっと暗部にいたっつーからひねくれてんだろ。
で、今朝は一緒に出勤した。奴は待機らしい。オレはというと午前中、年少の座学と卒業年生の体術指導を終わらせたところだ。最近じゃ爛れた休日くらいでバテない。うん、強くなったなオレ。
「うみのイルカさん?」
昼飯食いにいこうと本部棟食堂へ続く渡り廊下を歩いていたら突然目の前にくノ一が三人、現れた。ボンキュッボンな奔放赤毛にスレンダーおとなしめ黒髪美人、金髪巻き毛のデカ目ロリ系とタイプは違うがレベルは高い。しかもこれ、上忍か特上だな。普通に支給服着てるけどオーラが違うオーラが。
「うみのイルカ中忍ですか?」
「はい」
そんでもってこんなレベル高いくノ一が内勤のオレに声かけてくる理由ってのはたいてい決まっていて
「あの、ぶしつけながらあなたがはたけ上忍とお付き合いなさっているのは本当ですか?」
おぉ、珍しく礼儀正しいな、このスレンダー美人は。中忍に丁寧語使ってるよ。
「はい。恋人です」
だからオレもちゃんとこたえた。スレンダー美人が目を見開く。はぁ?とすごんできたのは金髪デカ目ロリ系美人だ。
「アンタさ、どうやってカカシに取り入ったのさ。腹黒い男じゃん?」
うわ、ガラ悪いなぁ。目ぇおっきくて幼顔のくせなんて口の悪い。ボンキュッボンの赤毛がバカにした顔で首を振る。
「先輩優しいからさぁ、アンタのこと迷惑って思っても言い出せないと思うんだよね」
先輩ってことはもしかしてこの方々、暗部さんでしょうか?っつかあの野郎が優しいだとぉ?どこをどう見たら優しいって言葉が出てくる。だいたい「言い出せない」とかありえねぇ。奴のオレ様ぶり見てから物言えよ。
「うみの中忍」
キッとスレンダー美人がオレを睨みつけてきた。
「どんなご事情があるか知りませんが、立場をわきまえご自分から身を引くべきではありませんか?」
出たよ『身を引け』発言。奴がオレのこと恋人宣言してからこっち、聞かされすぎて耳にタコが出来たわ。
どーもオレと世間様とじゃ認識に差があるようで、あの横暴我が儘男を人徳者だの優しいだのと評する輩は多い。そんでもって次に出るのが『オレみたいなもっさり中忍は分不相応だから身を引け』発言だ。
ジョーダンじゃねぇっての。もっさりで悪かったなぁ。だいたいだな、オレに絡んできたあげく恋人だってぬかして押し倒してきたのはあの野郎だぞ。オレからお願いしたわけじゃねぇ。そらまぁ、今じゃオレもだな、なんつーか、愛しちゃってるわけだから別れる気はさらさらねぇがな。
っつか、不満があんなら奴に言えよ。奴が別れたいっつったらオレも考えんでもないからよ。
なーんか、木の葉崩しとかで里がゴタついてる時は静かだったんだが最近また増えてきたなぁ。
これって里が落ち着いてきた証拠って喜ぶべきなのかなぁ。
うんうん唸っていたらどう思ったのか赤毛がイラついた声で言った。
「いいからアンタ、鏡でツラぁ見て自覚しな。自分がどんだけ先輩に迷惑かけてっか」
「正直、あなたのような方が恋人というのは先輩の恥です。写輪眼のカカシの経歴に傷をおつけになるおつもりですか?」
うわ〜、丁寧語だと余計キツー
「なんとか言いなよ、もっさり君」
「バカなんじゃねーの?コイツ」
金髪と赤毛も容赦ねぇな。オレはため息をついた。
「あのなぁ、お姉さん方」
彼女達の気配が尖る。あぁ、お姉さん発言に反応したか?
「だってアンタ方、年上だろ?オレの学年じゃ見ない顔だし、下の学年にもいなかった気がするんですがね。飛び級したんだったらわかんねぇけど」
オレは肩をすくめる。
「あぁ、失礼、階級は明らかオレより上ですね。敬語使わないとな」
と言いながら使うつもりはサラサラねぇ。
「だがなぁ、オレも礼儀知らずに使う敬語はあいにく持ちあわせてねぇんだ」
びしり、と指を突き出せば女達は唖然としている。まさか言い返してくるとは思わなかったらしい。
「もっさりだの鏡見ろだの、それが事実としてもだ、事実かもしんねぇが、だがな、アンタらオレとは初対面だよな?階級が上だからっつってむやみに下のモン、罵倒していいって法律はどこにもねぇんだよ」
そうなのだ。いくら階級社会だからって上のモンが好き勝手していいわけじゃない。横暴がまかり通ればかえって統制が乱れて任務にも支障が出る。受付で仕事をしていればそれが数字で見えてくるのだ。
「だいたいなぁ、オレがカカシさんの恋人だってのが不満ならそれ、あの野郎に直接言えよ。あの野郎がオレと別れたいっつってそれでもオレがつきまとってんなら文句言われてもしょうがねぇけどな、今んとこオレら、ラブラブだから、超絶仲いいから、特に夜はアツアツだから」
あ、ちょっと表現、オヤジ入っちまった。でも事実だし。ふふん、と鼻を鳴らすと目の前のくノ一達はワナワナと震えている。赤くなったり青くなったり、忍びがそんな感情駄々漏れじゃだめだと思うぞー。
「なっ生意気なっ」
「中忍風情がよくも」
くノ一達から殺気が立ち上った。ありゃ〜、怒ってる怒ってる。まぁな、ナメてかかった中忍からまさかの反撃だもんな。腹も立つか。
「切り刻んでやろうか」
ロリ系、ヤバ。そういやあの野郎とくっつくきっかけになったくノ一も似たようなこと言ってたな。くノ一って切り刻むのもしかして好き?
「まいったなぁ。お姉さん方、オレより明らか強いもんな。その気になりゃあっさり切り刻めんだろ」
オレは降参の形に両手をあげる。あらら、お姉さん方、物騒なチャクラ、練りはじめたよ。殺気立っちゃってまいったね。ただ、普段からカカシさんに鍛えられてるオレは逃げ足だけは速いんだ。カカシさんが任務でいない時はガイさんとかアスマさんが鍛えにくるしな。まぁ、逃げ出す前に一応宣言だけはやっとこう。
「オレは古風な男でな。オレより強かろうが弱かろうが、女にゃ拳をあげねぇのよ」
びしり、と親指をたててウィンクする。これはガイさんがやっててカッコイイなと思ったから真似してみたんだ。
「じゃ、お姉さん方、オレはズラからせてもらうぜ」
「あっ」
「この中忍っ」
「まっ待ちなさいよっ」
「文句ならカカシさんに直接言ってくんな」
シタッと片手をあげてオレは跳躍した。不意をつかれたくノ一達の怒号を背中に聞きながらひょいひょい本部棟を駆け登る。
「食堂到着ー」
窓から食堂に飛び込むともう食い終わってトレイを下げている同僚達が呆れ顔でオレを見た。
「イルカ、また絡まれたんか?」
「今度はどんなんに絡まれた」
「おぅ、ボンキュッボンにスレンダーにロリ系三人だ」
同僚達はやれやれと首を振った。
「お前、昔っからタフだけど、カカシさんと付き合いだしてからグレードアップしてるよな」
「っつか、お前くらいタフじゃねぇとつとまんねぇんだろな」
「鋼の神経してんもんな」
誉められてんのか貶されてんのかよくわからんが、誉められたと受け取っておこう。へへん、と胸を張る。
「逃げ足速ぇのも神経太ぇのも人生損するタイプって言われ続けたこのオレの生きる知恵って奴だ」
「羨ましいよお前ぇがよ」
「オレらもう出るとこだけど、しょうがねぇ、がんばったイルカに奢ってやる」
「何がいい?イルカ」
「そこ座ってろよ。持ってきてやる」
「わ〜い、唐揚げ定食がいいでーす」
みんな、ほんっといい奴らだな。オレとカカシさんとの勝負で賭けする連中だけど、いい奴らだよな。
ホントはな、オレは神経細いんだ。言っても誰も信じねぇけどホントなんだ。
父ちゃん母ちゃんがいなくなって、一人で生きていかなきゃいけなかったオレは落ち込んでドジやってバカやって笑われて、それでも生きていかなきゃいけないから、ほそーい神経一本一本を少しずつ撚り合わせたんだ。撚って撚って、辛いことがあるたんびによりあわせていって、そんでザイルみたいに太く強くした。今だって傷つかないわけじゃねぇ。だけど、傷ついたからって倒れるほどヤワじゃなくなったってだけだ。
「ほれ、イルカ」
ほかほかと湯気をあげる唐揚げ定食のトレイが目の前におかれた。
「オレらもう行くけど、お前、職員室戻る?」
「いや、受付のあと直帰」
「おぅ、じゃあまた明日な」
「ありがとうっ、友よ」
ひらひらと手を振って食堂を出て行く同僚達の背中に手を合わせる。さてと、飯だ飯。今日はいい日だ、タダ飯だ。
「いただきます」
唐揚げ定食58両、本部棟食堂の飯は良心価格でボリューム満点だ。おおー、今日の副菜はポテトサラダか。汁はなめことわかめの赤だし、いいねーいいねー。家では赤だし、作んねぇもんな。カカシさんがあんま好きじゃないってのが理由なんだけど。あの人、白味噌派だもんな。
「がんばったオレ、今日もいい日だな〜」
もしゃもしゃと唐揚げを咀嚼しているとふわ、と花のような香りがした。
「一人?イルカ先生」
顔をあげると夕日紅上忍がトレイを持って立っていた。
「ここ、いいかしら」
「もっもちろんです」
わたわたとするオレの前の席に紅さんは座った。うねる黒髪に大きな目、すっと通った鼻筋、は〜、相変わらず美人だなぁ。アスマさんがベタ惚れしてるわけだ。見た目に反して剛毅な性格だからアスマさん、完全に尻に敷かれてるんだけどな。あ、紅さん、オレと同じ唐揚げ定食だ。そういやこの人、酒豪なうえよく食べるんだった。なんで太んないんだろ。唐揚げ頬張りながらそんなこと考えてると紅さんがくす、と笑った。
「美味しそうに食べるわねぇ、カカシが言う通りだわ」
「へ?」
カカシが言うとおりって、オレのことなんか言ってんのか?
「あらら、知らないの?カカシったら待機所じゃあなたのことばっかりよ?」
むむむ、あの野郎、オレが鈍くさいとかすぐへばるとか言ってんじゃねーだろうな。いや、ありうる。あの野郎、口悪ぃうえデリカシーねぇし。
「可愛い可愛いって、イルカ先生がやること全部可愛いんですって。ノロケてばっかりよ」
オレは目を瞬かせた。ノロケる?あの罵詈雑言男が他所ではノロケるのか?オレが可愛いって?
いや、確かにあの野郎は悪口雑言の合間にハニーだのシュガーだの可愛いだのさしはさんではくるがな。ポケッとしていると紅さんがわずかに身を乗り出し声を潜めた。
「で、イルカ先生は今年のバレンタイン、カカシとチョコの交換するんでしょう?」
「?」
交換?交換っていったか?いや、あの男、去年も一昨年もバレンタインのチョコを強要してきたけど奴からもらったことは一度もないぞ?そのかわりっつうか、ホワイトデーには気合の入ったプレゼントしてくるがな。ついでにバレンタインとホワイトデー、どっちの夜も気合いれてくるからオレとしては迷惑極まりない行事なんだが。きょとんとしているオレの様子に紅さんは眉を寄せた。
「え、もしかしてイルカ先生、知らないの?本部勤めだし情報通だからてっきり」
「なっなんのことですか?」
「バレンタインよ今年のバレンタイン」
紅さんはさらに声を潜めた。
「今年は百年に一度の特別なバレンタインデーじゃないの」
|