こんにちは。はたけカカシです。真実の愛に目覚めた男です。
や〜〜〜、愛っていいねー愛って。
なんかこう、世界が変わるって感じ?
毎日が光り輝いてるっていうか、いや、輝いてるのはオレの大事な恋人、うみのイルカの存在なんだけどね。
ぎゃ〜〜、言っちゃった言っちゃった、このオレが恋人のノロケを語る日が来るなんてねーーーーっ。
結構シビアなオレの人生、そんなオレがようやく出会えた運命の恋人なんだけど、最初はそのことに気付かなかったの。まぁ、オレってほら、愛の狩人だったしね。
でもねー、運命は最初っからオレにヒントくれてたのよ。イルカはオレの運命の人だって。なんで気が付かなかったかねぇ。
まぁ、それまでは男の恋人なんて考えもしなかったっていうか、陰間茶屋の売れっ子に言い寄られてもピクとも反応しなかったからね。
オレって昔は暗部の輝石、銀色の魔性なんて異名とるほどの美少年でね、つまりは女だけじゃなく男にもモテモテだったわけ。忍びって性の垣根が低いじゃないの。そんな世界だからオレってね、女だけじゃなく男からも随分言い寄られた。でも全くダメでね、男には反応しないっていうかどっちかっていうと絶対イヤっていうか、強引に迫ってきた輩は返り討ちでボッコボコにしてたっていうか、そんなオレがだよ?いくらナルト達の先生だからって男からの告白に頷くなんて、その時点でホントは気づかなきゃいけなかったんだよね。
だってだよ?考えてもみて、イルカ先生のビジュアル。どっからどーみたって「漢」って感じでしょ?
男でもほら、オシャレ好きな奴って髪とか忍服とか小物とか色々とこだわるじゃないの。でもイルカ先生は黒髪を頭のてっぺんで無造作にくくってるだけ。いつも支給服を教科書どおりきっちり着ている。顔の造作は結構整っているんだけどハナからオシャレに興味ない性格が出てるのかモッサリ感が拭えない。顔の真ん中、鼻の上を一文字に横切る傷痕持ちだからさ、真面目な顔で何か言ってたり難しい案件かなんかで眉間に皺寄せてたりしたらそりゃもう「なにこの人、怖い忍者さん」って一般の方達に怯えられるくらい強面になっちゃう。そんな「漢」なイルカ先生がオレに好きだって告白してきたこと自体がビックリだったんだけど、頷いちゃったオレもオレっていうか、そこで何故運命の恋の始まりに気づけなかったのかっていうか。
まぁ、一見「強面忍者」さんなイルカ先生なんだけど、実はね、案外モテるのよ。受付の癒やしって、あぁ、イルカ先生はアカデミーの教師だけど受付も兼任してるの、その受付で「癒やし」とか「笑顔が可愛い」とか言われてんのね。
どういうことかっていうと、普段「強面忍者さん」なイルカ先生がニパって笑うと、突然春風が吹くんだな。真一文字の傷だって愛嬌になっちゃう。イルカ先生が受付の癒やしって呼ばれてる意味が付き合いはじめてようやくわかったってんだからオレも迂闊だよね。どうりでアカデミーでも子供達にも大人気なわけだ。
そんなイルカ先生、穏やかな性格も相まってモテるのよ。男にも女にもね、特に女は優良な結婚相手って狙い定めてくるね。
ダメダメ、あの人はオレのなんだから。
それにね、イルカ先生が恋人のオレにだけ見せてくれる顔があんの。
あ、閨のことじゃないよ?そりゃ閨の顔も特別だけど、そうじゃなくてね、二人でご飯食べてたり家でゴロゴロしてたりする時の顔、ふわん、って笑顔なのよ。受付や学校で見せるお日様みたいな笑顔じゃなくて、柔らかくてほんわかした笑顔なの。その顔みるとね、オレまでなんだかふわん、ってなる。あったかいものに全身を包まれる。あぁ、幸福ってこういうことなんだーって。こういう気持ち、生まれて初めてだね。オレね、自分が恋多き男だって思ってきたけど、ホントのとこ、なーんにもわかっちゃいなかったんだね。
オレは母親の顔を覚えていない。早くに死んじゃったからね。大好きだったオヤジは心を病んで死んでしまった。大事な友を亡くし、尊敬する先生まで逝ってしまって、オレはオレでたくさん人を殺して立派な忍びだって言われるようになっちゃって、だからこんなふわん、ってした幸福が訪れるなんて思いもしなかったよ。
イルカ先生に出会えてよかった。
先生がオレのこと、好きになってくれてよかった。
イルカ先生がふわん、って笑ってくれるならオレはどんなことでも…
「カカシー、ちょっとちょっと」
「アンタに聞きたいことあるのよ」
オレの両隣にくノ一が座った。上忍待機所のソファがドスン、と音をたててバウンドする。
「うわ、何よいきなり」
色気関係なく図々しくもオレの横に座ってくるくノ一といったら昔なじみのアンコと紅ぐらいなもんだ。その昔なじみは大声でとんでもないことを宣った。
「あんた、こないだの任務の後遺症でインポになっちゃったんだって?」
「恋人全部と手を切ったのも役立たずになっちゃったからってホント?」
うわ〜〜〜、なにこの恥じらいの欠片もないセリフ。オレの可愛いイルカ先生を見習ってほしいもんだね。っつか、ちょっと、聞き捨てならないんですけど。
「あのねぇ、オレにはちゃんとイルカ先生って可愛い恋人がいるの。役立たずなわけないじゃない」
充実のイチャパラナイトライフですよ、と言えば両隣のくノ一二人はじーっとオレの顔を見つめた。
「ねぇ、他の連中ならまだしも、下の毛も生えてない頃から一緒のアタシ達には隠さなくていいんだよ?」
なにその慎みのない発言、アンコ、そんなだからお前、恋人出来ないんだぞ
「そうよカカシ、微妙な問題だし気持ちはわかるけど」
ちょっと紅、憐れみの視線が痛いんですけど。
「イルカも不能になったアンタに同情して一緒にいてくれてるんでしょ?」
「はぁぁ?」
なにそれーーーっ。なんでそういう話になるっ。
「アンタと切れた女たちが言ってまわってるけど」
えええええーーーっ
「アンタってさぁ、ほんっとに女の趣味悪いよね」
「定員十人なんてバカやってるから碌なのが寄ってこないのよ」
「ほーら、切れた途端、つまんない仕返しされちゃってさぁ」
うっわ、仕返しなの?女怖ぇ〜
「女怖ぇとか言ってんじゃないよ」
「自業自得よね」
「………」
まったくもってその通り、言い返す言葉などございません。黙っていたら紅がジロ、と睨んできた。
「まさかとは思うけど、他で役立たずだからイルカにした、なんてことないでしょうね」
「なっ…」
んなわけないじゃないっ。丁度オレは出会った運命に感謝してたとこなんだから。
たしかにね、任務後すぐはまだイルカ先生のこと、運命の恋人だって気付いてなかったから、なんというか後回しにしちゃったというか、誰にも反応しない息子に絶望してヤケ気味だったっていうか、でもあれがきっかけでオレは自分の気持ちに気がついたわけで
「ちょっとぉ、アンタさぁ、元恋人どもが言いふらしてる通りってわけ?」
「えっと、その、言いふらしてるってなんて…」
やっぱり後ろめたいとこはある。おそるおそるアンコに聞いてみたら紅がキッと眦吊り上げた。うっわ、怖。アスマ、よくこんな怖いのと付き合ってられるよね。
「アスマは関係ないでしょっ」
怒鳴られた。あちゃ〜、動揺して声に出てた?
「あのねぇ、アンタ、インポになったから体裁保つためにイルカのとこ行ってるだけって言われてんのよ。まさかそれ、本当だって言わないでしょうね」
一瞬、魂抜けた。
「ちょっ、なっなんなの。オレはちゃんとセンセのこと、満足させてるよ?ヘタすりゃもうやめてって泣き出すくらいアンアン言わせてるんだからねっ」
「やだ、体だけなんだ」
「いやぁね、破廉恥」
どっちが破廉恥だっ。そもそも体裁保つためってイルカ先生に酷いでしょ。
「オレはセンセのこと、愛してるの、真剣なの。本気で愛してるから他の女と手を切ったのっ」
とにかくこれだけははっきりさせておかないと。
「イルカ先生が傷つくでしょ。そんな噂、絶対センセの耳に入れたくないしっ」
そう言えばアンコと紅はしょっぱい顔をした。
「カカシさぁ」
哀れむようにアンコが言った。
「アタシ達がこうやってアンタんとこに確認しにきたってことはイルカの耳には当然入ってるよ?」
「げぇ」
確かに、受付所なんて噂話のたまり場だ。
「もっもしかしてイルカ先生…」
「言われてたわよ、アンタの元恋人達に」
紅の目が冷たい。
「よかったわね、カカシがインポになったおかげで彼の恋人におさまれて、ですって」
「術の後遺症って深刻よね、もっさり男にしか反応しなくなっちゃうなんて、だってさ」
「オッオレのイルカ先生になんて下品なことをっ」
「そんな女どもを恋人にしてたんでしょ」
斬って捨てられた。ぐうの音もでませんです。
だが事態は深刻だ。いや、オレがどうこう言われるのはかまわない。インポ野郎と言われたところで他でナニするわけじゃなし、イルカ先生さえ満足して笑ってくれるなら全く問題ないのだ。だけど「イルカ先生を唯一の恋人にしたのは術の後遺症で勃たなくなったからだ」なんてあらぬ風評が定着するのは許せない。センセに失礼千万じゃないの。イルカ先生がどれほど魅力的か、その魅力の虜になったから他の女達と手を切ったんだってちゃんと世間にわからせなきゃいけない。第一、センセに誤解されたら大変だもんね。オレはアンコと紅に向き直る。
「その噂の火消し、手伝って」
二人が目を丸くした。そりゃそうだよね。オレが頼み事するなんて初めて、っていうか、今まで根も葉もない噂話バラまかれてもほったらかしにしていたもんね。
「イルカ先生に辛い思いさせたくないの」
「……アンタ、本気だったんだ」
なにを今更。
「でも勃たなくなってたのはホントなんでしょ?元恋人全員そう言ってるし」
勃たない勃たないって五月蝿いなぁ。それは真実の愛を知ったからなのっ。
「アンタがガックリ肩落として遊郭街から帰ってきてたって目撃情報もあるわよ」
さすが忍の里、侮れない…
「ねぇねぇ、そこのとこどうなのよ」
「術の後遺症ってホントにホント?」
「うっるさいなぁ」
思わずオレは口走った。
「ホントだよ。わぁるかったね」
なまじ後ろめたさがあるから誤魔化せなかったというか。
「「えええー」」
素っ頓狂な声をあげられた。なにお二方、目ぇキラキラさせて。
「勃たなくなるような術だったんだ」
「じゃあやっぱりアンタ、恋人のとこ、順番にまわって勃つかどうか試してたわけ?」
「遊郭でも試してダメだったって深刻じゃないの」
これだからくノ一はぁっ。
「そーだよ、術の後遺症で男のプライドもメンタルもズタズタだったの。色々試して復活したいって思うの、当然でしょっ」
思わずオレは拳を握って叫んでいた。
「でもね、言っとくけど…」
イルカ先生のことは本気だから、と続けようとしたオレはソファに座ったまま固まった。上忍待機所のドアの所にイルカ先生が立っている。げっ、イルカ先生の顔、強張ってるよ。これ絶対誤解した、今の言葉で誤解した。違うと言いたかったけど衝撃が大きくて言葉が出てこない。
「あ、イルカ」
「ちょっ、イルカ、違うのよ」
両隣に陣取っていたアンコと紅が立ち上がった。
「あのね、ほら、カカシの元恋人達がつまんない噂バラまいてるじゃない。だからね」
そうっ、フォローして。あそこだけ聞いたらオレ、人非人だからっ。センセ、誤解してるからっ。
「だからアタシ達で事の真偽をね、確かめようと思って、そしたらカカシがホントだって」
ちょーーーっとアンコさん、その言い方じゃ火に油っ。相変わらず言葉の足りない女だなお前はっ。
「違う違う」
紅が慌てて手を振った。さすが姐さん、言ってやって言ってやって
「噂はホントだったんだけどそうじゃなくて違ってるんだけど」
姐さ〜〜〜ん
「ちち違うんですっ」
ようやく声が出た。
「イルカ先生っ、あのっ」
イルカ先生の顔からスッと表情が消えた。
「せんせ…」
「カカシさん」
表情が消えたのはほんの一瞬で、すぐにふわ、と微笑む。
「わかってますから」
「…………」
いや、わかってないよね、その顔。バリバリ誤解してるよねっ。
「気になさらないでください」
気にするでしょうよ〜〜〜〜っ
オレは大慌てで立ち上がった。
「先生、誤解です」
駆け寄って手を取ろうとする。
「イルカ先生のこと、愛してるって気付いたから女達と別れたんです。術の後遺症とかじゃなくて」
「カカシーッ」
イルカ先生の手を取るはずだったオレの右手は山中イノイチ上忍に阻まれた。
「お前、女と全部切れたってのはあの術の後遺症のせいだったんだな」
うん、なんでこのタイミングで飛び込んでくるかな。
しかもそのセリフ、最悪なんだけど。
「何があった。詳しく聞かせろ。実用化が覚束なくなるだろうが。すぐに五代目のところに、おい、カカシ、聞いてるのか」
聞いてますよ聞いてます。誤解の上塗りしたイルカ先生が歩き去る背中を為す術なく見つめながら聞いてますよっ。
マズイ、本当にマズイ。だけど今から五代目のところだから追いかけられないし。
ジト目で振り向けばアンコと紅が気まずそうな顔をしている。とりあえず今日帰ったら言葉をつくして誤解を解かないと。
「ほら、何してる。行くぞカカシ」
問答無用でイノイチさんはオレを引っ張っていく。自業自得、今更ながらオレはその言葉を噛みしめていた。
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