「…レオリオ…」
「クラピカっ。」

ドアのところにクラピカが真っ青な顔で立っている。レオリオは慌てて駆け寄った。

「何があった、クラピカっ。」

ブラックリストハンターのクラピカがここまで動揺をあらわにするとは、何かとんでもないことがおこったのか。

「クラピカっ。」
「…レオリ…オ…」

震える手でクラピカはレオリオの上着を掴んだ。

「酷いものを見た…」
「クラピカ…」

レオリオはそっとクラピカの背に腕を回した。微かに震える姿が痛々しい。黙ってレオリオはクラピカの言葉を待った。

「酷い…光景だった…潰されて…」

レオリオはクラピカの背を優しく撫でる。

「潰されてるのに…動くのだ…」

クラピカはレオリオの胸に顔をうずめて呟く。

「体はぐちゃぐちゃで…足も千切れているのに動いていて…」

レオリオはただ、クラピカの背を撫でる。

「何故動けるのかわからなくて…側に寄ってみたら…」

ぶるり、と体を大きく震わせ、クラピカはレオリオにしがみついた。

「子供達が引きずっていくところだったんだ、いや、違う、食っていたんだ、子供達がその親を。小さな子供達が群がって体を食いちぎるから、潰れた体が動いていたんだっ。」
「クラピカっ。」
「忘れようと思うのに目に焼き付いていて離れない…」
「もうよせ、クラピカっ。」

たまらずレオリオはクラピカを抱きしめた。

「もういいからっ。」
「レオリオ…」
「いいから…」

あぁ、神様…

クラピカの細い体を抱きしめ、レオリオは呻いた。

神様…なんでこいつを苦しめる…こいつばかり…

「もう…忘れちまえ…クラピカ…」
「…だけど…」
「いいんだ、忘れろ、クラピカ…」



「だが気持ち悪かったのだーーーっ。」



がばっと体を離してクラピカがレオリオをみあげる。涙目だ。

「そこのパン屋の前、あのパン屋のオヤジが踏んだのだぞっ。」



「………はい?」



「信じられないだろうっ、あのデリカシーのなさっ。」

「…………あの…」

「でっかいゴキブリだったんだ。私が通りかかったとき、オヤジがそれを踏んづけて、」

「…………」

「あのオヤジ、太っているから、そりゃあゴキブリはぺっちゃんこだ。だが、それだったら片づければいいではないかっ。」

「………………」

「それを放置するから、戻ってきたら小さな子供ゴキブリがその死骸に群がって」

「……………………」

「ぎゃ〜〜、思い出すだけで気持ち悪ーーっ。」


「…ゴキブリ…?」


「目に焼き付いて離れないーーっ。」



あぁ、神様…



「あのパン屋ではもう買わんぞーーっ。」

こいつって、案外気楽に人生、渡っていけるかも…

綺麗な外見に反して、恋人の神経がワイヤーロープなみだったことを改めて神に感謝したレオリオだった。

☆☆☆☆☆

(実話です。実際にはプールサイドでの出来事。オレの友人が目撃してひっくり返ってました)