「そ・・その・・お・・おかしくないか・・」
「いいえ、とっても綺麗だわ。クラピカ」
赤いリボンを結びながらセンリツは優しく微笑んだ。
「きっと喜んでくれてよ、彼。」



クラピカは目を伏せ、それでも嬉しそうに頬を染める。
クラピカは全身を青い包み紙にすっぽりくるまれていた。いわゆる、茶巾包みという奴で、花のように結んだ赤いリボンの上にちょこんと顔だけだしていた。さらさらと金髪がリボンにかかる。深い青の包装紙とつやのある緋色のリボンはセンリツの見立てだった。

鮮やかだが上品な色合いにクラピカの白い肌と絹糸のような髪がよく映える。バショウはクラピカにみとれていた。普段の無愛想なクラピカも魅力的だと思っていたが、こうしてみると実にかわいらしい。

案外これがクラピカの素顔なのかもしれねぇ…
ぼんやりとバショウは考えた。


「さあ、終わったわ。後はお願いね。」

センリツの声でバショウは我に帰った。これからクラピカをレオリオの部屋まで送り届けるのだ。

「すまない、世話をかける。」
「何、たいしたことじゃねぇ。」

バショウはひょいとクラピカを抱き上げた。スクワラが車のキーを持って先にたつ。
バショウの目の前でクラピカの金髪が揺れた。甘い香りが鼻腔をくすぐる。薄い包み紙をとおして、直に体温が伝わってきた。後にも先にもこうしてクラピカの体を真近に感じることはないだろう。クラピカは僅かに頬を染め、バショウに身を預けている。だが、その微笑みは、他の男のものなのだ。そしてこの装いも。ふっきるように顔をあげると、バショウは車へ向かった。



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レオリオが一人で部屋にいることを確かめると、3人は人目につかぬようホテルにはいった。
バショウはそっとドアの前にクラピカをおろす。

「じゃ、がんばんな。」

あんた、本当に綺麗だ、そう言いかけて慌てて言葉を飲み込んだ。そのまま背を向けて歩き出す。ふいにクラピカに呼び止められた。思わず振り向く。と、クラピカが花のように微笑んだ。

「いろいろとありがとう。感謝している。バショウ。」
「・・何、たいしたことじゃねぇ。」

照れたように笑みを返すと、後ろ手に手を振って歩き始めた。
スクワラが呼び鈴をおして、バショウの後を追う。二人は目の端で、ドアが開き長身の黒髪の男が出てくるのを確かめた。黒髪の男は驚いたように目を見開き、それから包み紙ごとクラピカを抱きしめている。

バショウはふっと口元に笑みをはいた。それからいつもの仏頂面に戻る。スクワラがバショウの肩を小突いた。

「あんた、男だぜ。」
「ふん、一句詠みてェ気分だな。」
「聞いてやるさ、今ならあんたの俳句でもな。」
バショウは歌うように節をつけてつぶやいた。

「・・我が恋は水に燃えたつ蛍、蛍物言はで 笑止の蛍・・・」

「・・・いい俳句だな」
スクワラはバショウの顔を見上げた。バショウがにぃっと口の端を曲げた。
「俳句じゃねぇ、こりゃおれの国の古い歌さ。」
「よくわからんが・・つらいな。」
「ああ、つれぇ歌だ。」
バショウは考え込むような顔をした。
「だがこの歌とおれの違いはな、おれは惚れた奴のそばにはいるが、絶対に惚れてはもらえねぇんだ。」

「……チョコ…おごってやる。」

突然、スクワラが言った。バショウは唐突な言葉に目を丸くしてスクワラを見下ろす。スクワラは真直ぐ前を睨んだまま、むっつりしていた。バショウは顔をしかめた。それから心底嫌そうに言った。
「………いらねぇ。」
「おごってやるって。」
「いらねぇっつってっだろーがっ。」
「遠慮すんな。バレンタインだろ。」
「誰が遠慮だ、 燃やすぞっ。 」
「あんた、結構照れ屋さん?」
「あほうっ。」


毅然とこうべをあげて、野郎が二人、薄暮の街に歩み出して行く。そう、今日はセント・バレンタインデー。聖人様の守護する記念日をバショウははじめて意識して、おまけに無理矢理チョコを奢られた。

ずいぶん甘くてちょっぴり苦くて、なんだか涙の味もした。





愛の火を心に灯す全ての人々に幸いあれ。






fin
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えーと、お気付きの方もいらっしゃるでしょうが
使いまわし。某掲示板に以前書き込んだネタ。
ごめんなさい。
純情ヒゲ男。けっこうこのキャラは好きなもんで。