緩やかな丘の斜面の道は、秋の陽に白く輝いている。馬車はゆったりと進んでいた。
「レオリオ、止めてくれ」
クラピカは手綱をとっているレオリオに声をかけた。そして、道ばたの花を摘み取ると、再び荷台に腰をかけた。
「ん、どうした、クラピカ」
なにやら楽し気なクラピカの様子に、レオリオは肩ごしに問いかける。
「花占いだ」
そう答えると、クラピカは花を少しかかげた。穏やかな秋の風に、青紫の花びらがはらはらと散っていく。
「花占い?あの、好きー、嫌いー、っつって花びらむしっていくあれか?」
「少し違うな」
クラピカはおかしそうに笑うと、ふと、懐かしい目をした。
「クルタの花占いは大地の神々との交流だ。こうして問いたいことを念じて花をかざす」
クラピカは散っていく花びらをじっと見つめた。レオリオは黙って手綱をとっている。
「風が花びらをすべて散らす時、それは神々の承認なのだという。だから私達は皆、この花をつかっていた。花びらが散りやすいから…たわいない遊びだ…」
クラピカは柔らかく微笑む。しかしその瞳にはさみしげな色がうかんでいた。
明るい陽光がクラピカの悲しみをつつみこむ。
「やってみようか、クラピカ」
馬を止め、レオリオが振り向く。それから荷馬車を降りて傍らに咲く青紫の花を摘むと、クラピカのもとに駆け戻ってきた。
「やってみてくれ、クラピカ」
そういって花を差し出す。
「そうだな。お前におれがふさわしい恋人かどうかってのはどうだ。ま、とーぜん神様は御承認くださるだろうがな、クルタの神様におれからの挨拶ってやつだ」
クラピカは吹き出した。レオリオの突然の提案に目を丸くしていたクラピカだったが、笑いながら花を受け取る。そしてかざした。秋の白い光にクラピカの金の髪がきらめいた。
と、ザアっと一陣の風がふきすぎた。青紫の花びらがぱっと空に散る。風にのってくるくると花びらは宙を舞った。青空に舞い散る青紫。陽射しを受けて花びらはしばらくちらちら輝いていたが、やがて吹き渡る風とともに花野のかなたへ舞い消えた。
風がやみ、あとには真っ青な空だけが残る。暫く二人は花びらの舞った空を眺めていた。
「神様がとおったのかな…」
レオリオがぽつりと呟いた。
「ああ…」
クラピカが頷いた。それから二人は手の中の花をみた。
青紫の花びらを散らした花を…花びらの散った花を…散っているはずの…
「あちゃ〜〜っ」
レオリオは頭を抱えた。
「あんだけ風がふいて、残るか花びら、フツーッ」
クラピカの手には、一枚だけ花びらを残した花が握られていた。
「あ〜、そーかいそーかい。おれがあんまりいい男なんで、妬かれちまったってわけだな。ま、神様にゃ悪いが、おれはお前と…」
すっとクラピカが花びらでレオリオの唇にふれた。澄んだ瞳がレオリオを見つめる。
「違う、レオリオ。私は別のことを念じた」
クラピカは柔らかく目を細めた。
「お前と離れて生きた方がお互いのためなのではないか、そう、私の迷いを神々に問うた」
レオリオはぽかんとしている。その手にクラピカは 花を渡した。
「神々は承認しなかった。どうやら私はお前と離れてはいけないらしいな」
クラピカはまだ目をぱちくりさせているレオリオの頬にそっとくちづけた。そしてふふっと笑みをこぼす。はっと我に帰ったレオリオが顔がみるみる赤くなった。
「ばっばか、あたりまえだろーが」
わたわたと焦るレオリオにクラピカはクスリ、と肩を揺らした。
「そうだな、あたりまえだな。」
「いっ言うまでもねぇっての。」
照れくさそうにレオリオはそっぽをむいた。
「行こう、レオリオ」
クスクス笑っていたクラピカが明るく言う。レオリオも笑顔を返した。
「ああ、行くか」
レオリオは嬉し気にくちづけられた頬を押さえると再び手綱をとった。ガタガタと馬車は動きだす。
午後の秋の陽が道に白い光を投げかけている。穏やかな風がクラピカの頬をなで、ふきすぎていった。
青紫の花を手に、クラピカは空を見上げる。
クラピカは風の中に懐かしい人々の声を聞いたような気がした。そして、声に答えるように微笑んだ。
はらはらと花びらが散っていく。花びらは人々の想いを神々に届けるのだという。
クラピカの想いも届くのか。クルタの大地に、今は亡き、懐かしい人々のもとに。
馬車はゆっくりと丘をのぼる 。秋の花野を遠ざかっていく。その上にはどこまでも青い空がひろがっていた。
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古いファイルの整理をしてたら出てきました。美麗イラストを描かれるくじらさんのイラストがあんまり素敵だったので、勝手にかいて押し付けたブツです。それにちょっと加筆修正などして…そのうち、あのイラスト、強奪してこよう(野望と決意)