雨上がり





ぱらぱらと大粒の雨が落ちてきた。みるまに雨足が強くなる。
      
 


船室と甲板をつなぐ出入り口にたって、クラピカは雨を眺めていた。
先ほどまでの上天気が嘘のような激しい雨である。
船はハンター試験志望者を乗せて夕暮れ時の海を滑るように進んでいた。穏やかな日和だった。
志望者達は各人思い思いに甲板の上ですごしていた。食事をとるもの、己の武術を誇示するもの、寝転がっているもの。そこへ突然の雨である。あたふたと皆が船室に引き上げた後、甲板に残るのはクラピカだけだった。出入り口のひさしの下に立ち、クラピカは雨の匂いをかいだ。甲板が白く煙っている。ざあっという雨の音、たちのぼってくる雨の匂い。クラピカの双眸が暗い色を帯びる。 クラピカは片手を差し出すと雨を受けた。

雨はますます激しさをましていた。ひさしの下のクラピカにも甲板に打ちつける雨のしぶきが飛んでくる。クラピカは雨のしぶきを顔に受けた。苦悩の色が浮かぶ。何かを振払うように クラピカは目を閉 じた。

「おい、何やってんだ。風邪引くぞ。」

クラピカははっと我に帰って振り向いた。そこにはダークスーツに伊達眼鏡の背の高い男が立っていた。

「レオリオさん…」

レオリオさんと呼ばれたその男は、きまり悪そうに眼鏡を押し上げた。

「レオリオ、でいいって言ったろ。」
「あ、ああ、そうだったな。すまない、レオリオさん…」
「レ・オ・リ・オ」
「…レオリオ。」
「そ、それでいいって。」

にっと笑うとレオリオはクラピカの横に歩み寄った。まったく、何度繰り替えしてもすぐ「レオリオさん」に戻っちまう。律儀というかなんというか。参ったな、という顔でレオリオは話しかけた。

「どうしたんだよ。こんなとこで…って、お前、濡れてるじゃないか。ほんとに風邪引くぞ。」

雨のしぶきが霧のように体にかかり、いつのまにかクラピカは全身しっとりと濡れていた。驚いたレオリオはクラピカの腕を掴むと強引に内側に引き寄せた。

「ばっかだなあ、雨眺めるにしてもだなぁ、ったく、しょうがねぇな。」

そして上着を脱ぐとばさっとクラピカにはおらせる。今度はクラピカが驚く番だった。

「レ…レオリオさん。」

慌てて上着を返そうとするのをレオリオは押しとどめた。

「レ・オ・リ・オ。いい加減怒るぞ。」
「レオリオ…」

言い直しながらクラピカはなお上着を返そうとする。

「いいから、着てろって。体冷えてるぞ。」
「し…しかしそれでは君が風邪を引く。」
「いい男は風邪なんぞ引かない。」
「しかし…」
「たーっ、いい加減しつこい奴だな。着てろったら着てろ。」

ばんっとクラピカの両肩を上着の上から一たたきすると片目をつぶった。

「ま、貸しってことにしとこう。」

クラピカはふっと笑みをもらした。

「ならばありがたく借りよう。レオリオ。」

そういってクラピカは改めて上着の前を右手でかきあわせた。レオリオはうん、うん、と頷いて笑う。子供のようなその仕種に、クラピカは思わずにこっと笑いかけた。レオリオは一瞬、びっくりしたような目になり、それから照れたように横をむく。クラピカは意外に思った。
こういう男だったのか。
悪いやつではない、というのはもうわかっていた。嵐の夜の決闘のとき、気がつくとお互い協力して船員を助けていた。いい奴なのだ。だが、こんなふうに優しい気遣いをする男だったのか。この男は確かに私を気づかってくれたのだ。しかも、強引に上着を羽織らせたかと思うと、礼をいわれて照れている。クラピカはまじまじとレオリオの顔を眺めた。

「な…なんだよ…」

クラピカに見つめられてレオリオは戸惑った顔をした。

「あ、いや、なんでもない。」

クラピカは慌てて手を振る。

「はっはぁ、さてはおれ様があんまりいい男なんで、見愡れてたな。」

クラピカはあっけにとられた。いきなり何を言い出すやら。唖然とするクラピカにレオリオはにかにか嬉し気に指を振る。

「いけねぇいけねぇ、いっくらおれが魅力的でも惚れるなよ。おれはノンケでそっちの趣味はねぇからな。」

そして腰に手を当て、片手で黒い伊達眼鏡をおしあげる。クラピカは頭を抱えたくなった。本人はかっこよくポーズをきめたつもりらしい。

「まったく、どこをどうすればそういう言葉がでてくるのか、よくわからんな。」
「まあ、ミステリアスな男だからな、おれは。」
「だからっ、どーしてそうなるんだ。君の思考回路は理解の範疇をこえている。」
「そう、憧れられてもなぁ。」
「あきれているんだっ。」

あ、コノヤロー、そーゆー物言いするなら上着返しやがれっ、レオリオがむっと顔をつきだすと、断る、いったん貸したのだ、諦めろ、とクラピカが口をとがらす。 それから二人とも笑い出した。

「お前って、おれをさん付けで呼ぶくせ、そーとー無礼なこと言ってねぇか?」
「そうか?事実を述べたまでだがな。」
「こいつ、事実を言いてぇンだったらカッコいいレオリオさん、とでも呼んでみろ。」
「偽証は恥ずべき行為だと言わなかったか。」
「じゃあ、敬意をこめて、レオリオさん、だ。」
「レ・オ・リ・オ・なんだろう。」

あはは、と二人はまた笑った。

突如、クラピカの胸に罪悪感めいたものが押し寄せてきた。笑っている自分自身に愕然とした。
私は笑っている、何故だ…
いつのまにか、さっきまで口の中に蘇っていたものが消えていた。そのこともクラピカには衝撃だった。私は何を呑気に笑っている。レオリオとのたわいない軽口で気分を変えた自分が、ひどく浅はかな人間に思えた。
深刻ぶるつもりはない。だが、私は…
ふと、暗い目になって俯いたクラピカを見て、 レオリオが笑みを消した。クラピカは片手で唇を押さえ、黙り込んでいる。

「…なあ、」

ためらいがちにレオリオは声をかけた。クラピカは気付かない。ただ、俯いて黙りこくっている。もう一度レオリオは声をかけた。

「なあ、クラピカ。」

我にかえったクラピカは顔をあげた。案ずるような表情のレオリオが目の前にいた。

「あ、すまな…つい考え事を…」

レオリオの前で手前勝手に沈み込んだ自分を恥じて、クラピカは慌てて詫びようとした。それを遮り、レオリオは真面目な顔で問いかける。

「なあ、お前、ただ雨眺めてたわけじゃないんだろう。なんか、こう…」

それから、余計なことかもしれねぇけどよ、と頭をかいた。

「お前、こんな雨降ると、いっつも一人で雨みてるだろ。」

クラピカは目を見開いた。

「あ、気ぃ悪くしたか。いや、別に話したくなきゃそれでいいんだ。ただちょっと気になってな。」

悪かった、と謝るレオリオにクラピカは首を振った。君が謝ることではないんだ、レオリオ、気を使わせてすまなかった、改めてクラピカは詫びた。
そうだ、これは私自身の覚悟の問題なのだ。なのに他人に気を使わせた。なんて未熟なのだ、私は。
クラピカの表情に苦いものが浮かぶ。再び黙り込んだクラピカに、レオリオはしまった、と焦った。元気づけるつもりが、かえって沈み込ませてしまった。

レオリオは気付いていた。雨が降ると、クラピカは決まって独り、ここに立ち雨を眺める。最初は物好きな奴だ、くらいにしか思わなかった。だが、ある日、ふと垣間見たクラピカの顔が気になった。
なんて目、してやがる。
暗い瞳だった。独りなにかを抱え込んで苦しんでいるように見えた。

あの嵐の夜以来、ゴンとクラピカとレオリオの三人は、なんとなく一緒に過ごすことが多くなっていた。クラピカはいつも礼儀正しく、穏やかだった。だが、何かの拍子に、大抵はレオリオの軽口やちょっかいが原因だが、素顔のようなものがひょいと飛び出す。怒った目をしたり可愛く笑ったり。レオリオにはそれが新鮮だった。取り澄ました奴、と思っていただけに、尚更だった。打ち解けてくれるのが嬉しかった。それだけに、気にかかる。なんでこいつはこんな目をして雨を眺めるんだ。
目の前でクラピカは独り黙り込んでいる。せっかく笑ってくれたのに、余計な一言だった。ええい、ままよ、レオリオはバンっとクラピカの肩を叩いた。

「ま、お前もいろいろとあるだろうけどうよ、クラピカ。」

バンバンと立続けに肩を叩く。

「気分転換ってのも悪かないぜ。な。」

バンバン、とまた叩く。あんまり強く叩かれたものだから、その勢いにクラピカはよろけた。それからレオリオは、面喰らっているクラピカの鼻先にずいっと指を突き出した。お前にいいことを教えてやろう、得意げに宣言する。

「おれのばあさんがよく言っていた。」

それから、あれっ、と動きをとめる。

「その、なんてったっか、、笑う路地には何とかがくんだとよ。」
「それはもしかして、笑う門には福来る…か?」
「あ〜、それだそれ。」

あきれ顔のクラピカに、ま、どっちでもいーじゃねーか、と胸をはる。

「いいかげんな男だ。」

レオリオは憮然とした。

「お前って結構細かいのな。」

クラピカは吹き出した。笑いながら今度はクラピカがレオリオの肩を叩く。なっなんだよ、人がせっかく元気づけようとしたのによ、レオリオはますますむくれた。

「ああ、すまない、感謝はしているんだ。しかし君は本当に…」

ようやく笑いをおさめたクラピカはレオリオを優しい目でみつめた。胸の中の暗い自責は和らいでいる。己自身のわだかまりが無くなったわけではないが、気分転換も必要だ、というレオリオの言葉を素直に受け止めることができた。

「なんだよなんだよ、そんなに笑うこたぁねぇだろっ、気分わりーなっ。」

文句を並べようとするレオリオにクラピカは微笑みかけた。

「レオリオ、君は本当に…」

不思議な男だな…最後の言葉をクラピカは飲み込んだ。かわりにぽかんとする男の横に立ち、空を眺める。穏やかな表情になっていた。少し安心し、また照れもあり、レオリオはズボンのポケットに手を突っ込むと、やはり斜に空を見上げた。土砂降りの雨である。しばらく二人は黙って雨を見た。灰色の空から白い線を描いて大粒の雨が降り注ぐ。

「ひでぇ降りだ。」
「ああ…」

ざあざあと甲板にあたる雨音が響いた。真上には厚い雲がたれ込めている。 だが、空の端は明るくなってきていた。
ああ、お前、何抱えて雨をみるんだろう。だけどクラピカ、雨ってのはいつかあがるもんなんだぜ、ほら、明るくなってきてるじゃねーか。そう言いたいのだが、言葉と思いがぐるぐる胸にうずまいて、どうにもならない。ふいにクラピカの胸の内が自分の辛い記憶に重なった。

「思い出すことあるんだな、こんな雨だと。」

レオリオはぽつりと言った。クラピカははっとした。 レオリオはひさしの下からただ空を見ている。そして、低く呟いた。

「胸に刻み込んでいくしかねぇんだよな。いつまでも…生きてる間ずっと、忘れねぇで胸に刻んでいくしか…」

クラピカに語りかけているのか、己自身が噛みしめているのか、レオリオはじっと空を見上げている。クラピカはレオリオの横顔を見つめた。

忘れないで胸に刻んで生きていく…

クラピカの胸にクルタの村の出来事が押し寄せてきた。雨音とともに蘇る悲しみの記憶。だが、身をさかれるような悲嘆の記憶の彼方に、なつかしい人々の笑顔があった。 クルタの村の、皆の笑顔。

忘れないで胸に刻んで…

泣きたいような、笑いたいような気分がこみあげてきた。私の中にあるのは怒りや悲しみだけではない。たくさんの優しい記憶もある。忘れない、何もかも…胸に刻んで生きていく。

クラピカはふと、レオリオに目をやった。レオリオは黙って雨を眺めていた。
この男も背負っているのか、私と同じように。
クラピカは肩にかけられたレオリオの上着の温かさに今さらながら思いいたった。コロンの香りが心地いい。
不思議な男だ…
改めてクラピカはレオリオという男を考える。心にのしかかる暗い思い出の重さは変わらない。
だが、この男といると…この男になら…

「雨、あがってきたな、クラピカ。」

突然、レオリオが明るい声で振り向いた。とくん、クラピカの心臓が跳ねた。
な…なんだ、
クラピカはとまどった。 いつのまにか雨は小降りになっている。さらさらと銀のしずくを散らして、雨はあがった。

「通り雨だったな。」

にこやかにレオリオが話し掛けてくる。わけもなくクラピカはうろたえた。ああ、と生返事をしていると、 レオリオの手が上着の下に出していたクラピカの手に触れてきた。 とくん、また心臓が跳ねる。

「甲板にでてみようぜ、クラピカ。」

その手をレオリオがきゅっと握る。とくん。心臓が飛び出しそうな衝撃が走った。わけのわからぬその衝撃に狼狽したクラピカは手を引っ込めようとした。しかし、レオリオは離さない。クラピカの手を自分の胸の前に持ってくるとびっくりしたような顔になった。

「お前、手、冷たいぞ。」

レオリオはクラピカに上着を掛けなおした。そして、クラピカの手をしっかり握ると甲板に誘った。 とくとくとく、心臓が早鐘を打つ。レオリオの手が熱い。手を離そうと思うのだが、握られた感触が心地よくて引っ張られるままに甲板に出る。
わ…私はいったい…
困惑したクラピカは手を握られたままレオリオの背中を見つめた。ワイシャツの背中はひろく、たくましかった。レオリオがなにか喋っているが耳に入らない。レオリオのななめ後ろに立ち、生返事しながらその背中を見つめた。

「な、クラピカ。」

レオリオが振り向いた。また心臓が飛び跳ねる。
何だ、私はいったいどうしたというのだ…
いきなり襲ってきた奇妙な感情に途方にくれて、呆然とクラピカは立ち尽くした。

「クラピカ、大丈夫か?」

寒いのかと思ったらしい。レオリオは風があたらないよう、クラピカの背中にまわると、両手でクラピカの手を包み込んだ。

「な、こうすりゃ、あったかいだろ。」

ふわりとコロンの香りがクラピカを包む。レオリオの温もりが全身を包む。
レオリオが空をみあげて楽し気に言った。

「みろよ、クラピカ、星がでてるぜ。」

クラピカも空を見上げた。雨雲のとおりすぎた夕暮れ時の空は晴れわたり、海との境目に僅かに太陽の名残りをとどめている。濃紺の西の空にひとつ、星がまたたいていた。
心の中に何かが降り注いでくる。なにかしら温かくて、せつないものが。重ねられた手が熱い。包み込んでくるような温もりに戸惑い、クラピカは動くことができないでいた。













くしゃん、とクラピカが小さなくしゃみをした。

「あ…」

レオリオは、クラピカがしっとり濡れたままだということを思い出した。

「わ…わりぃ、濡れたままだったんだよな。こんなとこで引き止めちまって。」

いや、大丈夫だ、と笑って答えるクラピカを慌てて中へ引っ張っていく。

おれはなに浮かれてたんだ、レオリオは自分の頭を殴りつけたい気分だった。
はじめは、また沈み込まないよう元気づけるために甲板に誘った。なのに、だんだん気分がはずんできて、なんだか一人でペラペラしゃべっていたような気がする。風もあったのに、体がだいぶ冷えただろう。
しかも…
レオリオは赤面した。
おれはなんて馴れ馴れしいことしてたんだ… いくら寒そうだったからって、後ろから抱くようにして手を握るなんて…プライドの高いクラピカがよく何も言わなかった。迷惑だったろうに…
自己嫌悪でレオリオはクラピカをみることが出来なかった。








船倉の大部屋に戻るとゴンがとんできた。

「どうしたの、クラピカ。濡れてるよ。」

クラピカはゴンに優しい顔をむけた。まっすぐな気性のこの少年をクラピカは気に入っていた。ゴンもなついて、ことあるごとにクラピカ、クラピカとまとわりつく。一度、レオリオが子犬みてぇだ、とからかったことがあった。

「いや、なんでもない。雨をみていたら濡れてしまった。」

クラピカは肩をすくめると鞄をあけて着替えを取り出す。レオリオは急いで自分のタオルを引っぱりだし、クラピカに手渡した。

「ありがとう。」

そう言って笑ったクラピカからレオリオは目をそらした。なんとなく気恥ずかしい。やはりリュックをひっくりかえしはじめたゴンに声をかける。

「ゴン、クラピカの着替え、手伝ってやれ。おれは乾いたタオル調達してくるから。」

ふと、飛び出そうとしたレオリオの目に、部屋の片隅にいる二人の男の姿が入った。大柄なひげ面がにやにやしながら、もう片方の男に何か囁いている。ナイフを弄んでいるやせ形の男は、ひげ面に囁き返し、口を歪めて笑った。何本か欠けた黄色い歯の間から赤い舌がちろりとのぞいた。視線のさきにはクラピカがいる。レオリオは踵をかえすと、クラピカのところへ駆け戻った。

「クラピカ、こいよ。」

思わずレオリオは大声をだしていた。そして、驚いて目をパチクリさせているクラピカの手を掴んで大部屋の外へ引っ張り出した。ゴンがクラピカの鞄をもって大慌てで追ってくる。レオリオは二人を大部屋のとなりの船室に押し込むと、そこで体拭けよ、と言いおいてタオルを要求しに船長室へ走った。なぜか心が波立っていた。








船長室では、船長が コーヒーにラム酒をたっぷり入れたところだった。熱い湯気にラムの香りが芳しく立つ。ゆったりと椅子の背にもたれ、その香りを楽しんでから濃いコーヒーを口に含んだその時、ドアを蹴やぶるようにしてレオリオが飛び込んできた。

「船長、タオルだっ、タオルタオルタオルっ。」
「な…なんだ、いったい…」

面喰らっている船長に、レオリオは掴み掛からんばかりの勢いで迫る。

「船長っ、タオルがいるんだよ。清潔な奴だ。新しい奴をくれっ。いや、貸してくれっ。」

訳はわからないが、とにかくタオルを、しかもいいタオルを要求しているらしい。船長は椅子から立ち上がると作り付けの収納棚に歩み寄った。そして、棚を開けながらいぶかしそうに聞いた。

「血相変えて、何かと思えばタオルだぁ?お前、何をそんなに…」
「だーかーらっ、急がねぇとあいつが風邪ひいちまうだろ。」
「…?」

レオリオはじりじりしている。タオルを探す船長の手許を覗き込んでは、品定めを始める。そいつはくれ、そんな汚ねぇタオル使わせられっか、クラピカにゃちゃんとしたタオルがいるんだよ、無意識に口走るレオリオの顔を船長は手をとめて眺めた。

「クラピカ…?」

レオリオは気付かない。見つけだした新しいタオルを数枚抱えると、ちょいと借りるぜ、すまねぇな、と言い残し、また部屋を飛び出していった。
ばたん、と勢いよく閉じられたドアを眺めて、船長は得心した、といった顔になった。ふっふっ、と含み笑いをもらしながら、船長は再び椅子にかける。コーヒーは少々冷めたが、船長は気にするふうでもなく楽し気にカップをまわした。










清潔なタオルを調達するのに成功したレオリオはゴンとクラピカを押し込んだ部屋へ急いだ。
あいつが風邪ひいたらおれの責任だよな、濡れたままだってのに、長話しちまって…
クラピカが濡れたのは別にレオリオのせいではないのだが、レオリオは自分に責任があるように思うのが、そしてクラピカのために何かしてやれると思えるのが妙に快かった。

「待たせたな、クラピカ、タオルだ。船長に直談判して…」

勢いよくドアを開けたレオリオははっと息を飲んだ。クラピカはドアに背をむけ、上半身裸になって体を拭いているところだった。薄暗い船室に白い肌がうかびあがっている。華奢にみえた体躯は案外と鍛えられていて、しっかりとした筋肉がついている。それはしなやかな細みのムチをおもわせた。蜂蜜色の髪がうなじにはりついている。
レオリオの咽がごくりとなった。と、クラピカが振り向いた。レオリオを認めてにこっと笑う。レオリオはかっと体が熱くなるのを感じた。すらりとした腕があがり、髪を拭く。あらわになった胸の桜色の花びらがきめこまかい肌の白さを際立たせていた。レオリオはクラピカの体から目をそらすことができなかった。やはり桜色の、ふっくりとした唇が動いた。なにか話しかけてきている。だが、レオリオの耳に言葉は届かなかった。引き締まった体と対照的に柔らかそうな唇と頬、それをふちどる絹糸の髪。レオリオの頭の芯がぐらりと揺れた。
その時、ゴンが駆け寄ってきた。 クラピカの服とレオリオの上着を部屋の隅に干していたのだ。

「早かったね、レオリオ。あ、タオルもらえたんだ。」
「あ、ああ…」

どきりとしてレオリオはゴンを見た。
おれは何を考えていた…
体の奥が熱い。レオリオは我知らずゴンから目をそらした。少年の素直な瞳に映った自分がひどくあさましいもののように思えた。レオリオは無造作にタオルをゴンに渡すと踵をかえした。心臓が早鐘をうっている。ちゃんと拭け、そう言うのが精一杯だった。クラピカをみることができなかった。






廊下にでたレオリオは大きく息をついた。
なんだ、おれは、今のはなんだ…
動揺しているのがわかった。だが、それが何故なのか見当がつかない。気を取り直して歩き出そうとしたとき、廊下の端に立っているひと組の男達に付いた。隣の大部屋でクラピカを眺めていた連中である。にたにたと下卑た笑いを浮かべていた。レオリオはじろりと男達を睨み付けた。

「なんだ、てめぇら、そこで何をしている。」
「廊下に立ってちゃいけねぇのかい。」

ひげ面が嘲笑うように眺めおろしてきた。長身のレオリオよりも更に頭一つ大きい。やせた男が黄色い歯をむきだした。

「金髪の坊やのお着替え番してんのかい、ナイトさんよ。」
「御褒美もらったんだろ。かわいい坊やが柔肌拝ませてくれたかい。」
「白いお肌が御褒美とありゃあ、やさ男も力がはいるってなもんだ。」
「ちげぇねぇ。」

おうおう、おれらも御協力申してぇなぁ、げらげらと男達は笑った。レオリオは血が逆流するのを感じた。二人の正面に立つと低い声で言った。

「失せろ、ゲスどもが。」

へっ、とやせた男は馬鹿にした顔で吐き捨てる。弄んでいたナイフを長い舌でべろりと舐めた。

「てめぇが失せな。」

ひげ面が丸太のような腕でレオリオの肩を掴んですごむ。やに臭い息がレオリオにかかった。

「交替のお時間だ、やさ男。おっ母ぁの乳でもしゃぶってな。」
「その汚ねぇ手をどけろ。」

胃の腑から黒い塊が突き上げてきた。怒りに燃える目でレオリオはひげ面を睨みあげた。

「なんだ、おめぇ、」

ひげ面が嘲笑した。醜い表情がひろがる。

「おい、このやさ男は坊やの白い柔肌に未練があんだとよ。え、で、なに拝ませてもらったんだ。股でも開いてくれたん…」

ひげ面は最後まで言うことができなかった。レオリオの拳が鼻づらに叩き付けられる。どう、と派手にひっくり返った。

「汚ねぇ手をどけろと言ったんだ。」

レオリオは憤怒に震えた。突きかかってくるやせ男のナイフをかかとではねとばすとレオリオは滅茶苦茶に殴り掛かった。

「てめぇらの薄汚れた目でクラピカをみるんじゃねぇっ。」

血が沸騰した。怒りに我を忘れた。
汚ねぇ、汚ねぇ、汚ねぇ…
二人の男は悲鳴をあげたが、レオリオには聞こえていなかった。まわりに人が集まりはじめたのもかまわず、レオリオは二人を殴りつけた。

「よせ、レオリオ。いったいどうしたんだ。」

後ろから誰かがレオリオを抱きとめた。金色の髪と黒い小さな頭が目の端に入った。クラピカとゴンが必死で
レオリオをとめている。息をはずませながらレオリオは殴るのをやめた。二人の男は血だらけになって廊下に這いつくばっている。

「まったく、私の時といいケンカっぱやい男だな。」

クラピカがほっと息をついた。ゴンが心配そうに聞いてきた。

「レオリオ、何かあったんだよね。そうでなきゃ、レオリオがこんなに怒るはずないよ。」
「そうなのか、レオリオ。」

やはり心配顔になるクラピカにレオリオは不機嫌な声で答えた。

「たいしたことじゃねぇよ。」
「たいしたことじゃないのに人は殴らないだろう。」

腕を掴むクラピカの手がやけに熱く感じられる。レオリオは乱暴にその手を振払った。

「たいしたことじゃねぇと言ってるだろうっ。」
「でけぇ声だすんじゃねぇ、兄さん。」

凄みのある低い声が後ろから響いた。ぎょっとして皆が振り返ると、いつの間にか船長が立っている。床で呻いている二人を一瞥すると、どっかに放りこんどけ、と側にいた野次馬の一人に命じた。こそこそと他の見物人達は部屋へ引き上げる。レオリオはむっつりと黙っていた。

「兄さん、もめごともたいがいにしておけ。」

船長はやれやれ、という顔を向けた。 ゴンとクラピカが心配そうにレオリオを見上げる。

「関係ねぇ。」

レオリオはそう言い捨てるとポケットに手を突っ込んで歩き出した。クラピカとゴンの声が追ってくるが何を言っているのか耳には入らなかった。






レオリオは一人、甲板に出た。海風が寒かった。胸の中は沸き立ったままだ。だが、レオリオは自分が何に掻き乱されているのかわからなかった。ただ、無性に腹が立っていた。
あの男達の下卑た視線に何故あそこまで苛立ったのか、自分でもわからない。クラピカがかなりの使い手だということは、嵐の夜に対峙してよくわかっている。放っておいてもクラピカは大丈夫なのだ。男達がちょっかいをだせば、即座にクラピカは叩きのめしただろう。

…薄汚ねぇ目でみやがって…

そう思った。

何をだ。

レオリオは混乱した。

クラピカをか?でも何故おれがイライラする。

レオリオはふうっと息を吐いた。

おれはどうかしている、どうかしてるぜ…

ふいにクラピカの白い肌が目に浮かんだ。どきりとした。ゴンの目に映った自分の姿が蘇る。振払うように頭をあげる。満天の星だった。

どうかしてるぜ、おれは…

レオリオは低く呟く。やり場のない苛立ちをかかえて、いつまでもレオリオは夜空を眺めていた。








クラピカはレオリオの態度に戸惑っていた。
レオリオが甲板で自分を抱くように手を握ってきた時には、正直驚いた。男同士でなんだか不思議な格好だな、と思わないでもなかったが、レオリオの温もりが心にしみてきた。嬉しいような、恥ずかしいような気分でどぎまぎした。だが、いつのまにか素直に「レオリオ」と呼び掛けている自分に気がついた。二人きりのたわいないおしゃべりが楽しかった。それなのに、さっきからレオリオは自分の目をみない。タオルを持って部屋にはいってきたレオリオは、不機嫌そうな顔ですぐに出ていってしまった。

なにかレオリオを怒らせるようなことをしたか?

クラピカは不安になった。そして、不安になっている自分に腹が立ってきた。

何故私が気を揉むのだ。あいつの機嫌がどうだろうと、私には関係ない。

だが、やはり気になった。そんなとき、あのケンカ騒ぎである。ゴンとクラピカが必死で船長に取りなしている間に、レオリオはどこかへ行ってしまった。

どうして私はあの男がこんなに気になるのだろう。

レオリオを探しながら、クラピカは自問していた。

さっきからどうも私は変だ。レオリオに手を取られたくらいで、心臓が飛び跳ねた。落ち着け、変だぞ、私は。

レオリオの手の温もりを思い出す。

あいつの手はあたたかい…

クラピカはため息をついた。やめよう、堂々回りだ。気がつくとクラピカは甲板へ続く階段の下に来ていた。なんとなく、レオリオがいるような気がしてクラピカは階段をのぼった。はたして、レオリオはいた。ワイシャツ一枚で海風にふかれている。クラピカの胸が何故かきゅんと締め付けられた。










「ワイシャツ一枚で海風にあたる季節でもあるまい。」

ふいに声をかけられ、レオリオは我に返った。クラピカが立っている。海風にクラピカの金の髪がはらりと揺れた。レオリオはそっぽをむいてぶっきらぼうに答えた。

「お前もシャツ一枚じゃねぇか。」

が、クラピカは気を悪くするでもなく、レオリオの隣に立った。黙って空を見上げている。きまずそうにレオリオから声をかけた。

「何の用だよ。」
「別に用はない。」

素っ気無い答えが返ってきた。レオリオは少しむっとした。

「用がなきゃなんでここにいるんだ。」
「君こそ何故ここにいる。」

切り返されてレオリオはますますむかついてきた。

「そんなこたぁ、おれの勝手だろうがっ。」
「そうだな。ここにいるのも私の勝手だろう。」
「お前なあっ、ケンカ売りにきたのかよっ。」

思わず上から噛み付くと、言葉とはうらはらにクラピカが穏やかに微笑んだ。気勢をそがれたレオリオはぶつぶつと文句を並べた。

「だいたい、なんだよ、そんな格好でうろうろして、風邪ひいたっておれのせいじゃねぇからな。」
「君だってそんな格好では風邪をひくだろう。」
「しょーがねぇだろーが。誰も好きこのんでこんな格好…」

そこまで言ってレオリオははっと黙った。クラピカが静かに答える。

「そうだな、君の上着は私のせいで濡れてしまった。」

おれは別にそんなつもりじゃ…言い淀むレオリオの手をクラピカが取った。そして胸の前でその手を包み込む。レオリオは驚いてクラピカを見た。

「こうすれば温かい。」

レオリオを見上げて柔らかくクラピカが微笑む。冷えきったレオリオの体にクラピカの温もりが伝わってきた。
へへっ、とレオリオは嬉しそうに笑った。

「そうだな、あったかいな。」

胸の苛立ちはいつしか溶けてなくなっていた。取り合った手からお互いの温もりが通いあう。自然と笑みがこぼれた。心が暖かいもので満たされていく。手を握りあったまま、二人は夜空を見上げた。冬の銀河が横たわっている。ちらちらと瞬く星ぼしを二人は黙って見つめていた。

甲板の片隅で、そんな二人をながめる人影があった。しばらく佇んでいたが、二人に気付かれぬようそっとその場を離れる。ふっふっと、楽し気な含み笑いをもらすと、その人物は呟いた。今日の食後のコーヒーには、いつもよりラム酒を奮発するか。おっと、その前にネテロ会長にも連絡せにゃあ。あのじいさんも好きだからなあ。そしてゆっくりとした足取りで歩み去った。











へっくしょーいっ、船室にレオリオのくしゃみが響き渡った。
はっくしょん、あいの手のようにクラピカがくしゃみをする。

「シャツ一枚で甲板に長居するからだ。風邪ひくと人に説教できた立場か。」
「お前だって長居しただろーがっ。」
「私はお前に付き合っただけだっ。まさかあんな時間になるとは思わなかった。」
「あ、お前っ、おれのせいにするかーっ。」
「お前のせいなんだっ。」

心底あきれ顔でゴンがタオルを差し出した。

「どこ行ったかと思ったら、二人して仲良く甲板にいるんだもん。ちょっとずるいよ。」

仲良く、というゴンの言葉にクラピカとレオリオは抗議の声をあげようとした。が、 たてつづけにでるくしゃみでままならない。

「だいたい、おめぇが雨なんかに濡れてっから。」
「そういうことを蒸し返すか。卑劣な奴だ。」
「卑劣だぁっ、恩人にむかって吐く言葉かっ。」
「なにが恩人だ、私が頼んだわけではないぞっ。」
「お前らな、仲がいいのもたいがいにしろ。」
「仲なんかよくないっ。」

二人同時に噛み付いたさきに、船長が立っていた。

「せ…船長…」

二人はきまり悪そうに挨拶した。ゴンが人懐っこい笑顔をむける。

「船長さん、もうすぐ港につくの?」
「ああ、そうだな。あと数日で着く。いよいよだな。」

三人の間に、決意と緊張の入り交じった空気が流れる。船長の強面の顔に優しい色が浮かんだ。

「いずれにせよ、お前達三人、この航海は無駄にゃあならないだろうよ。ハンターになれようと、なれまいとな。特に…」

船長は言葉をきると、レオリオとクラピカにむかってにっと歯をみせた。

「運命の航海って奴か。おれも船乗り冥利につきるぜ。」

ぽかんとする二人にもう一度笑ってみせると、ゴンの頭をくしゃくしゃとしごいてから船倉を出ていった。

「訳わかんねぇこというなぁ。」

首をひねるレオリオにゴンがそれって仲がいいってことじゃないの、と真面目に答える。クラピカが目をつりあげた。冗談ではないぞ、こんな男と一緒にされては困る。レオリオも負けていない。そりゃあ、こっちのセリフだぁっ、そう怒鳴る。港に着くまでの付き合いと思えばこそ我慢してやってるんだ、それもこっちのセリフだぁっ、再燃した二人の言い合いを眺めながら、ゴンが嬉しそうに言った。やっぱり仲いいってことなんだ。否定しようとした二人の言葉はくしゃみで宙に消えていた。











船は港に着いた。船長に礼を言ったあと、あっさりとレオリオは二人に別れを告げた。ゴンが驚いてレオリオを引き止める。だが、レオリオはさっさと二人の前から歩み去った。

クラピカは少なからずショックを受けた。なんとなく、ずっとレオリオと一緒にいられると思っていたのだ。そして次の瞬間、クラピカはそんなことを考えていた自分に腹が立ってきた。

一緒にいる理由などないではないか、ばかばかしい。

ついでレオリオへの猛烈な怒りが沸き上がってきた。

何だ、あいつは。あんな薄情な男だとは思わなかった。あの男にとって私は仲間でも友でもなかったのだな。どうでもいい存在だったのだ、私は…

そこまで考えて、クラピカは自分が傷付いていることに愕然とした。

何故私は…

手にレオリオの温もりがまだ残っていた。重い記憶に忍び込んできた甘い温もり。クラピカにはそれが何なのかわからない。同道を求めてきたうさんくさい男に冷たい一瞥をくれると、クラピカはふっきるように歩き出した。混乱する心を無理矢理押さえ付け、クラピカは山道をたどる。むしょうにせつなかった。

突然降り注いできたあたたかい雨、クラピカの心の中でそれは激しさをましてくる。己の心をもてあましながら、クラピカはその雨にうたれ続けていた。











バスに揺られながら、レオリオは自分が落胆しているのに気がついた。

クラピカの奴、しれっとしてやがった。

腹が立ってきた。

あっさりしたもんじゃないか、もすこしダチになったとか、そういう感覚はねぇのか。

自分から別行動をとったことは棚に上げ、クラピカの態度を恨めしく思った。

ゴンのように、とまではいわねぇが、少しくらい引き止めてもよさそうなもんだ。せめて残念だ、の一言ぐらいでないのか。それなのに、何が私はゴンと一緒に、だ。おれは仲間じゃねぇのかよ。

そこまで考えて、今度は落胆している自分に腹が立ってきた。

なんだ、なんであんな奴のこと、おれが気にしなきゃなんねぇ。しょせん、同じ船に乗り合わせただけのことだ。あんな、口達者で可愛げのねぇ…

ふいにクラピカの面ざしが、薄やみに浮かんだ白い肌が蘇る。それとともに握りあった手の温もりを思い出す。レオリオは途方に暮れた。

なんでおれ、あいつのこと、気になってんだ?

叩き付けるような雨だった。あいつは雨に何を見ていたんだ。おれは何故あいつが気になった。
突然心に入り込んできた端正な面ざし。レオリオは困惑した。

なんであいつの顔がきえねぇんだ…

バスがひどく揺れた。レオリオは頭をしたたかにぶつけて我に返った。

「おいっ、このバス、さっきから同じところまわってっじゃねーかっ。」







結局、レオリオは二人に合流することになった。クラピカの態度は相変わらずだが、それでも少しは喜んだ顔をしてくれたような気がする。

ダチになったのかな。

レオリオは考える。

そうだ、おれ達は、ゴンもクラピカも仲間になったんだよな。だからあいつが気になってただけのことなんだ。そうだ、そうに違いない。

自分の中のわりきれない感情からレオリオは無意識に目を背けていた。

ダチができるってな、いいもんだ…

浮き浮きと軽口をたたきながら、レオリオはクラピカの横を歩く。

ゴンもクラピカもおれの仲間だ。大事なダチなんだ。

レオリオは気付かない。心の奥底にともった炎に。 気分が浮き立つのは新しい仲間を得たからなのだと納得する。

クラピカも浮き立つ気分をどうすることもできなかった。レオリオが側にいる。さっきまでの苛立った気持ちは跡形もなく溶けて流れていた。
二人は互いの存在を心地よく感じながら一本杉を目指す。自分の気持ちの正体に気付いた時、新たな苦悩がはじまるとは夢にも思わず。

運命はさりげなく、その車輪をまわしはじめた。二人がそのことに思いいたるのはそう先のことではない。ハンターへの第一歩に二人の人生が重なった。

山頂の一本杉が青い空に突き出している。



☆☆☆☆☆☆☆☆
完売本からの再録。雨シリーズの第一話です。この後、「雨宿り」「驟雨」と続いていきますが、クラピカさんが雨に何を思い出していたか、って昔のエピソードは「驟雨」になります。少しずつアップしていこう…